
本記事では、
- OPTコンプレッサーの動作原理
- VCA、OPT、FET、Vari-Mu(真空管)、PWMの比較
- LA-2Aを代表とするプラグイン
- 具体的なパラメータ操作による音の変化
- ソース別・実践的な設定例
- よくある質問(10選)
- お勧めしない使い方
を、できるだけ実践的な目線で整理していきます。
1. OPTコンプレッサーの特徴
1-1. 光学素子を使ったゲイン制御
OPT(オプティカル/光学式)コンプレッサーは、光源とフォトレジスタ(LDR:Light Dependent Resistor)を使ってゲインを制御する方式です。
一般的な流れは次の通りです。
- 入力信号をサイドチェイン回路で検出し、電圧に変換
- その電圧で内部の光源(LED、電球など)の明るさを変化させる
- 光が強くなると、隣接したLDRの抵抗値が下がる
- 抵抗値の変化が、そのままゲインリダクション量として動作する
この「光→抵抗値→ゲイン」という物理的なプロセスが、OPT特有のスムーズで段階的なコンプレッションを生み出します。VCAのように瞬間的にピンと反応するのではなく、じわっと立ち上がり、じわっと戻るのがポイントです。
1-2. アタック/リリース
光学セル(T4セルなど)とLDRは、電子部品と違い立ち上がり時間と残光(アフターグロー)を持っています。
代表的なLA-2Aのスペックは次のように公開されています。
- アタック:およそ10msで全体の2/3のゲインリダクションに到達
- リリース:
- 最初の50%が約60ms
- 残りの50%はプログラム依存で1~15秒(信号レベルと持続時間で変化)
ここで重要なのは、ユーザーがアタック/リリースをミリ秒単位で指定するのではなく、入力信号側が挙動を「引っ張る」という点です。
この性質によって、
- 一発だけ強く鳴る音には、すぐに戻る
- 強い音が続くフレーズには、長くゆっくり効き続ける
といった、人間の耳にとって自然なコンプレッションカーブが作られます。このため、OPTは「レベラー」と呼ばれ、ピーク潰しというより、全体のレベルをなだらかに均す用途で使われることが多いです。
1-3. サウンドキャラクター
- スムーズで目立たない圧縮:
- ソフトニーで、比率もプログラム依存
- 「かかっている感じ」が出にくく、違和感なくダイナミクスが整う
- ウォームでやや太い質感:
- LA-2A系の多くが真空管アンプ+トランス構成
- 2次高調波中心の軽いサチュレーションが乗る
- 中域フォーカス(特にLA-3A):
- 1~3kHz付近が前に出やすく、ギターなどの存在感を出しやすい
- 低歪みのゲイン制御:
- LDR自体は歪みが少なく、VCAやFETよりクリーンな制御が可能
結果として、
- ボーカルの「うるさいところ」だけ丸くなり、聞き取りやすさが上がる
- ベースのサステインが整い、演奏の粗が目立たなくなる
- アコギやピアノのレベル感が均一になり、ミックスの邪魔をしなくなる
といった「地味だが効き続ける調整」が得意です。
1-4. パラメータが少ない=迷いにくい
クラシックなLA-2Aは、ユーザーが触るノブはほぼ2つだけです。
- Peak Reduction(実質スレッショルド値+比率)
- Gain(メイクアップゲイン)
さらに、動作モード切り替え用にCOMP / LIMITスイッチがある程度です。アタック/リリースは光学セルと回路設計で決まっており、ユーザーが直接設定することはできません。
この「極端なシンプルさ」によって、
- アタック・リリース・ニーなどの数値に悩まなくて良い
- 「どれくらい潰すか」と「どれくらい音量を戻すか」だけに集中できる
というメリットが生まれます。一方で、ドラムの一部だけを狙い撃ちしたい、といった用途には不向きです。この「良くも悪くも自動で音楽的に動く」性格を理解しておくことが重要です。
2. 代表的なOPTコンプレッサー
OPT系のプラグインは非常に多いですが、ここでは実在ハードを明確にモデリングしているものを中心に整理します。
2-1. LA-2A系(Teletronix / UREI)

(WAVES CLA-2A)
オプトコンプの代名詞と言えるのがTeletronix LA-2Aです。T4光学セルと真空管アンプを用いたレベリングアンプで、ボーカルやベースの定番として長年使われてきました。
代表的なプラグイン:
- Teletronix LA-2A Collection(Universal Audio)
- Teletronix LA-2A Tube Compressor(Universal Audio ネイティブ)
- CLA-2A(Waves)
- VC 2A(Native Instruments / Softube開発)
- T-RackS White 2A(IK Multimedia)
- VLA-2A(Black Rooster Audio)
- Comp LA(Overloud)
- LALA(Analog Obsession)
2-2. LA-3A系

(WAVES CLA-3A)
LA-3Aは、LA-2Aと同じTeletronix系ですが、アンプ部がソリッドステート設計になっており、よりタイトで中域が前に出るキャラクターです。ギター用途で好まれることが多いです。
代表的なプラグイン:
- LA-3A Audio Leveler(Universal Audio)
- Comp LAのLA-3Aモード(Overloud)
2-3. 汎用オプトモードを持つプラグイン
特定機種のクローンではなく、「オプト的な動作とカーブ」を再現したモードを持つプラグインも存在します。これらは、LA-2A的なキャラクターを維持しつつ、アタック/リリース/比率の調整が可能です。
- FabFilter Pro-C 2(Opto モード)
- Brainworx bx_opto
- Plugin Alliance ACME Opticom XLA-3
- Apple Compressor(Vintage Opto モード)
こうしたプラグインは、クラシックなLA-2Aの「音楽的な動作」に加えて、現代的な柔軟性を持たせたものと言えます。
3. FET、VCA、Vari-Mu、PWMとの使い分け
コンプレッサーの回路方式ごとの大まかな特徴を、OPT中心の視点から整理します。
3-1. 各方式のざっくり比較
| 方式 | 動作原理 | 応答速度 | 音の傾向 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| OPT | 光源+LDR | 中速(10ms前後) | スムーズ、ウォーム | ボーカル、ベース、アコースティック、軽いバス処理 |
| FET | トランジスタバイアス | 超高速(0.1~1ms) | アグレッシブ、色付け強め | ドラム、攻撃的なボーカル、トランジェント強調 |
| VCA | 電圧制御IC | 高速(1~10ms)、精密 | クリーン~パンチ、汎用 | ドラムバス、ミックスバス、マスタリング |
| Vari-Mu | 真空管バイアス | 遅め(レベル依存) | 太く滑らか | 2mix、クラシカル/ジャズ系、ハイエンドマスタリング |
| PWM | パルス幅変調 | 非常に高速 | 非常にクリーン | 精密なラウドネス制御、リミッティング |
3-2. OPTが得意な領域
ボーカルのレベリング
- 突出したフレーズだけを軽く抑え、全体として聴き取りやすくする
- コンプレッサー特有の「ポンピング感」が出にくい
ベースの安定化
- ピッキングの強弱を吸収しつつ、サステインを一定に保つ
- 低域が常に同じ音量感で聞こえるようにする
アコースティック楽器のスムージング
- アコギ、ピアノ、ストリングス、パッドなどのレベルを整え、耳障りなピークだけを丸める
ミックスバスの「なで」コンプ
- 1~2dB程度の軽いリダクションで、全体を少しだけなめらかにする
3-3. OPTが不得意な領域
超高速トランジェント処理
- スネアのアタックだけを削る、キックのクリックだけを整えるといった用途は苦手
- この役割はFETやVCAが担当
ポンピングや攻撃的なコンプ効果
- EDM系のサイドチェイン的な揺れ、派手なポンピングはOPT単体では作りにくい
ブリックウォールリミッティング
- LA-2AのLIMITモードでも、デジタルリミッターの代わりにはならない
このように、OPTは「速さ」や「精密さ」よりも、「音楽的な自然さ」に全振りした設計だと捉えると分かりやすいです。
4. 実践的な操作手順と変化の聴き方
ここでは、LA-2A系プラグインを使った基本的な操作手順と、聴くべきポイントを整理します。
4-1. セットアップの流れ
- インサート位置を決めるボーカルやベースでは、
- 軽いEQ or ディエッサー
- OPTコンプ(LA-2A系)
- 必要に応じてFETやVCAで追加処理
- メーターを「GR(ゲインリダクション)」にするどれくらい潰れているのかを常に目で確認できるようにします。
- 入力レベルを調整する多くのLA-2A系は、アナログ基準レベル(-18dBFS ≒ 0VU)付近で素直に動くよう設計されています。クリップさせず、かつセルがしっかり反応する程度まで入力を上げます。
- Peak Reduction を回して、目標GRまで持っていくボーカルの場合:
- 軽め:2~3dB
- 標準:3~5dB
- 強め:7~10dB
- Gain(メイクアップ)で音量をバイパス時と揃える音量が上がっただけで「良くなった」と錯覚しないよう、ON/OFFでラウドネスがほぼ同じになるように調整します。
- COMP / LIMIT の切り替えを試す
- COMP:レベラー的。自然なレベル調整
- LIMIT:よりピーク抑制寄り
- 必要なら前後に別のコンプを追加してボーカルチェーンとして、
- 1176(FET) → LA-2A(OPT)
4-2. 聴き取りのポイント
Peak Reduction を大きく動かしてみる
- まずはあえて10dB以上潰してみて、
- アタックがどれだけ丸くなるか
- ブレスや語尾がどれだけ持ち上がるか
を確認します。
- その後、2~5dBの実用範囲に戻し、「ちょうど良いところ」を探ります。
COMP / LIMIT の違いを体感する
- 同じPeak Reduction量でも、LIMITにすると音がより前に張り付きます。
- 自然さを優先するならCOMP、ロック系で強く押し出したいならLIMIT、といった使い分けが一般的です。
アタック/リリース可変タイプの場合
- アタックを速くすると、トランジェントが丸くなり、柔らかい印象に
- アタックを遅くすると、立ち上がりの勢いは残したままサステインだけ整えられます
- リリースは、曲のテンポに合わせて「戻り方」が気持ち良い位置を探します
4-3. 練習方法
- ソロだけでなく、必ずミックスの中でON/OFFを聴き比べる
- GR 2dB、5dB、10dBの3パターンを作り、抜け・太さ・ノリを比較する
- メーターよりも「歌詞の聞き取りやすさ」「ベースの安定感」に注目する
こうした手順で、OPTの「効き方」を身体で覚えていくのがおすすめです。
5. ソース別・実践的な設定例
ここでは、スタートポイントとして使える設定例をまとめます。
ボーカル(メイン)
- 使用プラグイン:LA-2A系
- 目標GR:3~5dB(激しい曲で7~10dB)
- モード:COMP
- チェーン例:1176 → LA-2A
ベース(エレキ/シンセ)
- 使用プラグイン:LA-2A系 or Opticom系
- 目標GR:4~7dB(ほぼ常時リダクション)
アコースティックギター
- 使用プラグイン:LA-2A / LA-3A / bx_opto
- 目標GR:2~4dB
- 目的:ストロークの粒立ちを揃えつつ、アタックは残す
ピアノ
- 使用プラグイン:LA-2A系 or アタック可変のオプト系
- 目標GR:2~3dB(ピーク時5dB)
ストリングス/パッド
- 使用プラグイン:LA-2A系
- 目標GR:2~4dB
- 目的:ロングトーンの安定化
ドラム・ルームマイク
- 使用プラグイン:LA-2A系 or Opticom系
- 目標GR:5~10dB
- 使い方:パラレルで原音に混ぜてパンチを追加
ドラムバス
- 使用プラグイン:アタック/リリース可変のオプト系
- 目標GR:1~3dB
ミックスバス(2mix)
- 使用プラグイン:LA-2A系、モダンオプト系
- 目標GR:1~2dB
- 目的:トーンと滑らかさを付与(ラウドネスは別処理)
6. お勧めしない使い方
最後に、複数の資料や実務記事で「向いていない」とされている使い方をまとめます。
- ブリックウォールリミッターの代わりに使う
- スネアやキックのアタックだけを削る目的で使う
- ラウドネス確保の全てをOPTに任せる
- 「色を付けたくない」マスタリングチェーンに無自覚に挿す
- EDM的な極端なダッキング/ポンピングをOPTだけで作ろうとする
OPTは「レベリング」に特化したツールです。無理に他方式の役割を背負わせない方が、安全かつ再現性の高い結果につながります。
7. よくある質問 (6選)
- QOPT は本当にボーカル専用ですか?
- A
いいえ。ボーカルで最も一般的だが、ベース、ギター、キーボード、ストリングス、バス、さらには 2mix でも使用例が報告されている。用途は「トランジェント処理より全体のレベリングが重視される場面」に限定されるというのが、より正確な説明。
- QLA-2A のアタック/リリースは本当に固定ですか?
- A
半分そう、半分違う。ユーザーが直接調整できない設計だが、光学セルのプログラムディペンデント特性により、入力信号の強度と持続時間に応じて実効的な時定数は変化する。つまり「物理的には固定」だが「挙動的には信号依存」という矛盾した特性。
- Q同じ LA-2A クローンなのに、メーカーごとに音が違うのはなぜ?
- A
複数の理由:
- 参照した実機の個体差(製造年代による部品差など)
- T4 光学セルの物理的個体差
- 真空管やトランスのモデリング精度
- DAW 内部のサンプリングレート処理やアンチエイリアス戦略
- QOPT でポンピング感を出せますか?
- A
限定的。アタック/リリースを調整可能なプラグイン(bx_opto、Pro-C2 Opto など)であれば、速いリリースで若干のポンピングは可能。ただし、FET(1176)や VCA ほど派手なポンピングは、OPT の設計思想上「出しにくい」。
- QOPT をマスタリング 2mix に使えますか?
- A
条件付き。1~2 dB のごく軽いリダクションで「グルー」を足す用途なら有効。ただし正確なラウドネスコントロールや絶対的ピーク抑制は、VCA リミッターやデジタルブリックウォールに任せるべき。
- QPWM と OPT、選ぶ理由は何ですか?
- A
キャラクター vs クリーンさのトレードオフ。
- PWM:非常にクリーン、高速、色付けなし → ラウドネス、精密制御に向く
- OPT:クリーンさでは劣るが、耳に優しい非線形なリリースとサチュレーション → ボーカル、ベース、アコースティック向き
まとめ
今回はOPTコンプレッサーの
- 光学式ならではの動作原理
- 代表的なLA-2A/LA-3A系プラグイン
- FET、VCA、Vari-Mu、PWMとの比較
- 実践的な操作手順と聴き方
- ソース別の設定例
- お勧めしない使い方
といったポイントを整理してきました。
OPTは、
- ボーカルのレベルを自然に揃える
- ベースラインを安定させる
- アコースティック楽器をうるさくせずに前に出す
といった場面で、他の方式では代替しにくい役割を持っています。
一方で、
- ドラムのトランジェントを精密にコントロールしたい
- ミックスバスでグルーヴ感を作り込みたい
- 最終ラウドネスを厳密に管理したい
といった用途は、得意ではありません。
そこで、次に必要になるのは「FETコンプレッサー」です。
FETは「トランジェントを積極的にデザインするための道具」です。
1176に代表されるFETコンプの超高速アタックとキャラクターを理解することで更に音作りの選択肢は一気に広がります。
著者について
NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)
- 業界経歴:1995年~2010年
- セッション実績:200本以上
- 対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music

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