コンプレッサーはミックスやマスタリングの過程で欠かせないダイナミクス処理ツールです。
しかし一口にコンプレッサーといっても、その回路方式と動作特性によって異なる音色と特性を持つ複数のタイプが存在します。
本記事では、最も一般的な5つのコンプレッサータイプについて、その動作原理と特性を詳しく解説し、プラグインの判断基準を解説していきます。
回路方式別で詳しく知りたい方は
をご覧ください。
コンプレッサーの基本概念
コンプレッサーの動作原理
コンプレッサーは、入力信号がユーザーが設定した閾値レベル(スレッショルド)を超過したとき、その超過分に応じて信号のゲインを自動的に低下させるエフェクトです。これにより、音量変化を抑制し、よりコントロールされた信号を得られます。
主要パラメータの解説
・スレッショルド(Threshold)
圧縮を開始する信号レベルを設定します。スレッショルドより低い信号は処理されず、スレッショルドを超えた部分が圧縮の対象となります。
・レシオ(Ratio)
圧縮の度合いを決定します。例えば4:1の比率の場合、スレッショルドを4dB超過した信号は1dB上昇のみに抑制されます。比率が高いほど圧縮が強くなります。
・アタックタイム(Attack Time)
信号がスレッショルドを超えてから、圧縮が完全に機能するまでの時間です。アタックタイムが短いほど、素早く圧縮が開始されます。
・リリースタイム(Release Time)
信号がスレッショルド以下に戻った後、圧縮を解除するまでの時間です。リリースが短いほど、素早く圧縮が解放されます。
・メイクアップゲイン(Makeup Gain)
圧縮によって低下した全体的な音量を補正するために使用されます。圧縮後の音量を元レベルに戻すことで、音量の明確な比較が可能になります。
検出方式の基礎知識
・ピーク検出
信号の瞬間的な最高値に反応する検出方式です。トランジェント(音の立ち上がり)に即座に反応するため、ドラムなどのパーカッションに適しています。
・RMS検出(二乗平均平方根検出)
信号の平均ラウドネスに反応する検出方式です。瞬間的なピークを通す傾向があり、ボーカルなど徐々に変化する音源に適しています。RMS値は、人間の耳がどの程度の音量を感じるかに近い測定方法です。
RMS=1N∑i=1Nxi2RMS=N1∑i=1Nxi2
VCA(電圧制御アンプ)
回路方式の詳細
VCA方式(Voltage Controlled Amplifier)は、電圧制御増幅器を使用した最もポピュラーで広く採用されているコンプレッサータイプです。入力信号の電圧がゲイン制御信号として機能し、別の電子回路の増幅度を直接コントロールします。
具体的には、VCA回路内の可変素子(多くの場合、JFET:接合型電界効果トランジスタやMOSFET:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)がオペアンプのフィードバック経路に配置されます。制御電圧が印加されると、この可変素子の抵抗値が変わり、結果としてオペアンプの利得が変化する仕組みです。
この方式は技術的に成熟しており、小型化と低コスト化が容易なため、ハードウェアコンプレッサーやプラグインの双方で採用されています。
特性
検出方式:ピーク検出
入力信号の最高値に即座に反応するため、トランジェント制御に優れています。
アタックタイム:非常に高速
VCA方式は反応速度に優れており、3ミリ秒から設定可能で、最速では0.1~0.3ミリ秒程度まで高速化することが可能です。この高速なアタック特性により、瞬間的なピークもすばやく捕捉できます。
リリースタイム:素早く復帰
アタックタイムと同様に、素早いリリース特性を持ち、圧縮の解放が迅速です。
音色特性:透明で色付けが少ない
VCA方式は電子的なゲイン制御であり、信号に対して比較的透明な処理を実現します。言い換えると、「音色を変えずに音量だけをコントロールしたい」という用途に適しています。
実用的な用途
- トランジェント制御: ドラムやパーカッションの立ち上がりを抑制
- ドラム処理: キック、スネア、ハイハットなどのパーカッション系音源
- パラレルコンプレッション: オリジナル信号と圧縮信号をブレンドする技法
- バス/マスタリング: 複数トラックをまとめて処理する際に、透明性を保ちつつ音量を制御
- エレキベース: トランジェントの制御とアタック感の調整
プラグイン選定時のポイント
VCAプラグインを選ぶ際は、以下の点を検討します:
- オートゲイン機能: 圧縮による音量低下を自動補正するか否か
- ルックアヘッド機能: 圧縮の開始を先読みするか否か(最新のデジタル実装で多くの製品に搭載)
- マルチバンド対応: 周波数帯域ごとに異なる圧縮設定が可能か否か
- サイドチェーンフィルタ: 特定の周波数範囲にのみ反応させるカスタマイズが可能か否か
代表機種
SSL G-Master Buss Compressor
- SSLコンソール内蔵のVCA方式コンプレッサー
- マスタリング環境で標準的に使用
- プラグイン版は Waves SSL G-Master Buss Compressor として提供
dbx 160
- 1970年代に開発されたVCA方式の先駆的機種
- ドラム処理に高く評価
- プラグイン版は Waves dbx 160 Compressor/Limiter として提供
FET(電界効果トランジスタ)
回路方式の詳細
FET方式(Field Effect Transistor)は、電界効果トランジスタを使用したゲイン制御回路です。FET素子を直接ゲイン制御素子として使用し、印加される制御電圧によってトランジスタの導通度を変化させることで、信号の減衰を実現します。
FET方式を採用したコンプレッサーは、フィードバック方式の圧縮を採用しています。これは、圧縮量がリアルタイムで出力信号をモニタリングして決定される方式で、プログラム依存型の圧縮特性を実現します。
特性
検出方式:ピーク検出
入力信号のピーク値に即座に反応します。
アタックタイム:極めて高速
FET方式は、アタック時間が非常に短く設定可能です。アタックタイムの設定範囲は、20マイクロ秒(0.00002秒)から数百マイクロ秒の範囲です。この極めて高速なアタック特性により、楽器のアタック音(音の立ち上がり)をしっかりと制御できます。
リリースタイム:高速で制御可能
FET方式のコンプレッサーは、比較的高速なリリースタイムを備えており、50ミリ秒(0.05秒)から1秒以上の範囲で調整できるのが一般的です。さらに、FET素子の特性により、リリースタイムがプログラム依存性を持つ場合があります。つまり、トランジェント直後のリリースは速く、持続的で強い圧縮後のリリースは遅くなり、自動的にポンピング(圧縮によるボリュームの上下動)を軽減するように動作する傾向があります。
音色特性:色付けがある
FET方式のコンプレッサーは、単なるボリューム制御に留まらず、信号に対して顕著な音色変化をもたらします。
- FET素子の非線形性: FET素子の電気的特性により、圧縮時に調和歪が生成される
- 複数段の増幅: 多くの場合、プリアンプと出力段での増幅処理により、信号に色付けが加わる
圧縮特性:プログラム依存型
FET方式のコンプレッサーの圧縮比とアタック/リリース時間は、入力信号の周波数成分や継続時間に応じて変化する場合があります。これを「プログラム依存性」と呼びます。例えば、低周波のトランジェントと高周波のトランジェントでは、同じアタック時間設定でも実際の反応速度が異なる場合があります。
実用的な用途
- ボーカル処理: ボーカルのアタック感とパンチを制御しつつ、色付けを利用
- ベース処理: ベースの立ち上がり(プリ・アタック感)を制御し、色付けを活用
- ドラム処理: ドラム全体(バスドラム、スネア、タム)の処理
- ピークリミッター: 極端なピークを瞬時に抑制する用途
代表機種
Universal Audio 1176 Classic FET Compressor
- UREI 1176 Peak Limiter のエミュレーション
- オリジナルの特性を再現し、プログラム依存性、オールボタン・イン・モードを実装
- 複数のプラグインプラットフォームで提供
オプティカル(光学式)
回路方式の詳細
オプティカル・コンプレッサー(Optical)は、**光源と光感知素子(フォトセル)**を使用した独特な検出・制御方式を採用しています。これは、他の電子回路ベースのコンプレッサーとは全く異なるメカニズムです。
オプティカル・フォトセルの構造
オプティカルコンプレッサーの中核は、光源とフォトセル(光依存抵抗器 / LDR:Light Dependent Resistor)からなるペアです:
- 光源(通常はエレクトロルミネセント光源):入力信号の大きさに応じて明るさが変化するように設計されています。
- フォトセル(光依存抵抗):入力信号の増幅度に比例した明るさの光を受け、その光量に応じて抵抗値が変わります。
動作原理
入力信号がサイドチェーン回路を通じて光源を点灯させます。入力信号が大きいほど、光源はより明るく点灯します。フォトセルはこの光の強さを「感知」し、光が強いほど抵抗値が低くなり、光が弱いほど抵抗値が高くなります。このフォトセルの可変抵抗がコンプレッション量を制御するゲイン・ステージに組み込まれているため、結果として圧縮が実現されます。
このアナログ的で機械的なメカニズムが、オプティカルコンプレッサーの特性の源となっています。
特性
検出方式:RMS検出(二乗平均平方根検出)
光源の光量は入力信号の瞬間的なピークではなく、信号の平均的なエネルギー(ラウドネス)に比例した設計になっています。つまり、オプティカルコンプレッサーは「平均値」に反応し、瞬間的なピークは通過する傾向があります。
アタックタイム:自動設定(フィラメント熱慣性に依存)
オプティカルコンプレッサーの攻撃時間は、光源のフィラメントの熱慣性によって決定されます。つまり、ユーザーがアタックタイムを自由に調整することは、多くの製品では不可能です。光源がどの程度の速度で明るくなるかは、フィラメントの物理的特性により決まるため、相対的に「遅い」アタック特性を持つことが多いです。
一般的には、オプティカルコンプレッサーのアタックタイムは約80ミリ秒程度から開始され、より遅い設定も可能です。
リリースタイム:自動設定(フィラメント冷却に依存)
同様に、リリースタイムもフィラメントの冷却時間によって決定されます。フィラメントが冷却される速度は、フィラメントの熱容量と周囲環境の熱散逸特性に依存するため、ユーザーは制御できない場合がほとんどです。このため、リリースタイムは相対的に「遅い」傾向があります。
音色特性:スムーズな圧縮特性
オプティカルコンプレッサーは、単に音量をコントロールするだけでなく、信号に対して顕著な音響特性を示します:
- 非線形な圧縮曲線: 光源とフォトセルのアナログ的なインタラクションにより、圧縮のオン/オフが一気に切り替わるのではなく、非常にスムーズに推移します
- 周波数依存のアタック特性: 一部のオプティカルコンプレッサーでは、入力信号の周波数成分が圧縮特性に影響する場合があります
非線形な圧縮カーブ
オプティカルコンプレッサーの圧縮カーブは、電子的に制御された他のタイプと異なり、フォトセルの電気光学特性に従った非線形なカーブを描きます。
実用的な用途
- ボーカル処理: ボーカルの変動する音量を段階的に制御
- ベース処理: ベースのボリューム変動を均等化
- 楽器の音量均等化: 周波数特性を損なわずに、ボリュームを制御したい場面
- アコースティック楽器: ギター、ピアノなど、自然な響きを保ちたい楽器
- バス/マスタリング: 複数トラックをまとめて処理する際に、スムーズな圧縮を実現
代表機種
Teletronix LA2A
- 1965年発表のオプティカルコンプレッサー
- チューブ入力段と出力段を搭載
- フィラメント式光源とCdS(硫化カドミウム)フォトセルを使用
- プラグイン版は Universal Audio、Waves、Softube 等複数のメーカーから提供
Variable-MU(真空管方式)
回路方式の詳細
Vari-Mu方式は、真空管(特にリモートカットオフ・チューブ)を直接ゲイン制御素子として使用する最も古典的で歴史のあるコンプレッサー形式です。この方式は、1960年代以前から存在し、オプティカルコンプレッサーやFETコンプレッサーより歴史的には先行しています。
真空管ゲイン制御メカニズム
Vari-Mu方式では、真空管の**制御グリッド(Control Grid)**に印加される負のバイアス電圧を変化させることで、プレート電流を制御します:
- 静止状態: バイアス電圧が小さい(より0Vに近い)場合、プレート電流は多く流れ、信号の減衰は少ない
- 圧縮時: バイアス電圧がより負の方向に変化すると、プレート電流が減少し、信号がより強く減衰される
- 制御電圧: 入力信号のレベルを検出し、その検出信号が制御グリッドのバイアス電圧を制御する
特性
検出方式:ピーク検出
Vari-Mu方式は、入力信号のピーク値を検出してバイアス電圧を制御します。
アタックタイム:相対的に遅い
Vari-Mu方式は、真空管の電気的応答速度と、検出・制御回路の特性により、相対的に遅いアタックタイムを持ちます。一般的には、10~50ミリ秒程度のアタックタイムになることが多く、VCAやFETと比べて明らかに遅いです。
リリースタイム:相対的に遅い
アタックタイムと同様に、リリースタイムも相対的に遅く、100~500ミリ秒以上になることが多いです。これにより、圧縮解放後の音量復帰が徐々に進行します。
コンプレッション比:プログラム依存型(自動調整)
Vari-Mu方式の独特な特徴として、コンプレッション比が固定でなく、信号レベルに応じて自動的に変化する場合があります。これは、真空管のプレート特性曲線の非線形性に由来します。つまり、設定したレシオの値にかかわらず、実際の圧縮比が信号の大きさに応じて変わることがあり、これが「プログラム依存性」と呼ばれる現象です。
例えば、小さな信号に対しては緩い圧縮(例:2:1)が行われ、大きな信号に対しては強い圧縮(例:8:1に近づく)が行われるといった動作です。
ニー特性:ソフトニー
Vari-Mu方式の圧縮カーブは、スレッショルド周辺で「ソフトニー」と呼ばれる、なめらかで曲線的な推移を示します。つまり、スレッショルド以下で0の圧縮、スレッショルド以上で急激に圧縮比が上がるのではなく、スレッショルド周辺で徐々に圧縮が増加していく特性を持ちます。
音色特性:調和歪を含む
Vari-Mu方式のコンプレッサーは、以下の理由により、音響特性に変化をもたらします:
- 真空管の非線形性: 真空管の電気特性により、音信号が真空管を通過する際に調和歪が生成されます
- 出力トランスのサチュレーション: 多くのVari-Muコンプレッサーは出力トランスを搭載しており、この出力トランスが飽和すると、歪が生成されます
- 複数の真空管段: 多くの場合、プリアンプ、圧縮段、出力段などで複数の真空管が使用されており、これらの相互作用により音響特性が形成されます
実用的な用途
- バスコンプレッション: 混合トラック全体に対して、段階的な圧縮を適用
- マスタリング: 最終的な音響調整段階で、圧縮を実現
- ボーカルプロセッシング: ボーカルに対して、遅いアタック/リリースによる圧縮を適用
- 全体のミックスの統一感: ミックス全体に対して、ソフトニーの圧縮特性を適用
代表機種
Fairchild Limiter
1959年に発表されたVari-Mu方式コンプレッサーです。
- 14本の真空管(モノ版は7本)を搭載
- フルバンドコンプレッション(マルチバンド機能なし)
- マスタリング環境で標準的に使用
- 重量約30kg(モノ版でも約15kg)、19インチラックにも対応
- プラグイン版は Universal Audio Fairchild Limiter、Waves Fairchild など複数提供
Manley ELOP(Elop Mastering Compressor / Limiter)
より現代的なVari-Mu方式のコンプレッサーです。
- デジタル制御ながら、真空管出力段を搭載
- より小型で軽量
- より多くのパラメータ調整が可能
- マスタリング用途に設計
- プラグイン版は Universal Audio Manley ELOP として提供
PWM(パルス幅変調 )
回路方式の詳細
PWM方式( Pulse Width Modulation)は、数百kHz以上の超高周波パルス信号を使用し、そのパルス幅(デューティサイクル)を制御電圧に応じて変調させることで圧縮を実現する、最も新しいコンプレッサー形式です。
PWM回路の基本原理
PWM方式では、以下のプロセスが動作します:
- 高周波キャリア生成: 数百kHz以上の周波数を持つパルス波形(方形波)を生成します
- デューティサイクル変調: この高周波パルスのオン時間とオフ時間の比(デューティサイクル)を、制御電圧に応じて変化させます。
- 例:50%デューティサイクル = パルスの半分がオン、半分がオフ
- 制御電圧が高いほど、デューティサイクルが低くなり、平均電圧が低下
- 信号処理: 入力信号がこのPWMパルスで「切り刻まれ」、平均化されることで、事実上のゲイン制御が実現されます
- フィルタリング: PWMの高周波成分が除去され、低周波のオーディオ信号のみが出力されます
特性
検出方式:サンプリングベース
PWM方式は、制御電圧がサンプリングされ、デューティサイクルの変調パラメータとして使用されます。
アタックタイム:最速級
PWM方式は、デジタル的な高速サンプリングと制御により、アタックタイムに関して最速級の反応を実現します。マイクロ秒単位での制御が可能であり、VCAやFETと比べても遜色ない、あるいはそれ以上の高速反応が期待できます。
リリースタイム:高速かつ柔軟
同様に、リリースタイムも高速で、精密な制御が可能です。
歪:極めて低い
PWM方式は、他のコンプレッサー形式よりも、圧縮プロセス自体による歪みが極めて少ないことが特徴です。これは、PWM信号と高周波フィルタリングの精度が高いためです。
音色特性:透明な処理
低歪率と高精度な制御により、PWM方式のコンプレッサーは、圧縮による音響特性の変化が最小限に抑えられます。
実用的な用途
- マスタリング: 最終段階の音響処理で、高精度な圧縮が必要な場面
- ブロードキャスト(放送): 音声放送などで、音質を損なわずに音量を制御する必要がある用途
- ポストプロダクション: 映画音声、ナレーション、ポッドキャスト製作などで、信号の処理精度が重要な場面
代表機種
Waves Kramer PIE Compressor
- 1960年代のPye Broadcastコンプレッサー(PWM方式)をエミュレート
- VUメーター搭載、Analogスイッチで50Hz/60Hz パワーサプライの特性を選択可能
- 制御要素:Threshold、Ratio、Decay Time(Release)、Output(Make-up Gain)
- 最も市販されているPWM系コンプレッサープラグイン
Tone Empire Pythor V2
- 1960年代英国製PWMコンプレッサー(Drum Hammer)をエミュレート
- 2024年9月リリース
- 2バンドパラメトリックEQ統合
- Ultra Xオーバーサンプリング対応(最大192kHz)
- H-Mode(ハードコンプレッション)搭載
- DAW対応:VST3、AU、AAX (64-bit)
検出方式による補足分類
コンプレッサーの回路方式とは別に、検出方式という観点からも分類することができます。これは、コンプレッサーが「どのように入力信号を測定するか」という視点です。
ピーク検出
動作原理
ピーク検出方式では、入力信号の**瞬間的な最高値(ピーク)**に反応します。つまり、信号が瞬間的にどの程度高くなったかを測定し、その値に基づいて圧縮を開始します。
特性
- 反応速度: 極めて高速。ピークが発生した直後に圧縮が開始される
- トランジェント制御: ドラムなど、音の立ち上がりが急峻な音源に対して、高い制御性を発揮
使用されている回路方式: VCA、FET、PWM
RMS検出(二乗平均平方根検出)
動作原理
RMS検出方式では、入力信号の**平均的なエネルギー(ラウドネス)**を測定します。
特性
- 反応速度: ピーク検出より遅い。信号の平均値が変化するまで待つ必要があるため
- トランジェント処理: 瞬間的なピークは通過する傾向があり、持続的な音量変化に対してより適している
使用されている回路方式: オプティカル方式
両方式の選択基準
| 検出方式 | 適用場面 | 効果 |
|---|---|---|
| ピーク検出 | ドラムのアタック制御、パーカッション処理 | 瞬間的なピーク抑制、トランジェント制御 |
| RMS検出 | ボーカル、楽器の音量均等化 | 段階的な音量制御 |
コンプレッサータイプ別比較表
| 特性 | VCA | FET | オプティカル | Vari-Mu | PWM |
|---|---|---|---|---|---|
| 回路方式 | 電圧制御増幅器 | 電界効果トランジスタ | 光学式(フォトセル) | 真空管 | パルス幅変調 |
| 検出方式 | ピーク | ピーク | RMS | ピーク | サンプリング |
| アタックタイム | 極速(0.1~3ms) | 極速(0.02~0.8ms) | 遅い(80ms~) | 遅い(10~50ms) | 極速(μs単位) |
| リリースタイム | 素早い | 高速・制御可能 | 遅い(自動) | 遅い | 高速・柔軟 |
| 音色変化 | 最小限 | あり | あり | あり | 最小限 |
| 検出特性 | ピーク反応 | ピーク反応 | 平均値反応 | ピーク反応 | 精密サンプリング |
| 推奨用途 | ドラム、トランジェント | ボーカル、ベース | ボーカル、楽器 | バス、マスタリング | マスタリング、放送 |
回路方式と用途の関係性
ドラム処理
ドラム処理には、VCA方式またはFET方式が適しています:
- キックドラム: アタック感を残しつつ、ピークを抑える必要があるため、アタックタイムを短く設定できるVCAまたはFETが有効
- スネア: トランジェント(パチッという音)を制御するために、ピーク検出とアタック制御に優れたVCAまたはFET
- ハイハット: 高周波成分が多いため、周波数特性に影響されにくいVCA
オプティカルやVari-Mu方式は、アタック/リリースが比較的遅いため、ドラムのアタック感の制御には不向きです。
ボーカル処理
ボーカル処理には、FET方式またはオプティカル方式が適しています:
- FET:ボーカルの音量変動を素早く抑えつつ、ピークを制御
- オプティカル:ボーカルの音量を段階的に均等化
VCA方式は透明性があり、「ボーカルをしっかり制御したい」という用途に使用できますが、その特性により異なる音響結果が得られます。
バス/マスタリング処理
バス/マスタリング処理には、Vari-Mu方式またはPWM方式が適しています:
- Vari-Mu:ソフトニー特性による段階的な圧縮。マスタリング環境で採用される傾向
- PWM:最高精度の圧縮。高精度が必要な環境に採用される傾向
VCA方式も使用されますが、その透明性により、他のタイプとは異なる音響結果が得られます。
複数コンプレッサーの組み合わせ方法
プロフェッショナルなミックスでは、複数のコンプレッサーを異なる回路方式で組み合わせることが可能です。
シリーズ接続(直列接続)
異なるタイプのコンプレッサーを直列に接続し、段階的に圧縮を実現します:
例:ボーカルトラック
- 1段目(FET): 高速なアタックでボーカルの立ち上がり部分を制御
- 2段目(オプティカル): 遅いアタック/リリースで音量変動を段階的に補正
この構成により、異なる特性を持つ圧縮が順序立てて適用されます。
パラレル接続
複数のコンプレッサーの出力を混合する方法:
例:ドラムバス
- ドライシグナル: オリジナルの信号
- コンプレッサーA(VCA): 透明な制御で全体的な音量を調整
- コンプレッサーB(FET): 色付けのある圧縮を適用
各信号の比率を調整することで、異なる圧縮特性の効果を組み合わせられます。
マルチバンド処理
周波数帯域ごとに異なるコンプレッサーを適用:
- 低域(100Hz以下): VCA方式で透明に制御
- 中域(100Hz~4kHz): FET方式で色付けのある制御を適用
- 高域(4kHz以上): オプティカル方式で段階的な制御を適用
この方法により、各周波数帯域に最適なコンプレッション特性を適用できます。
まとめ
コンプレッサーは、その回路方式と動作特性により、5つの主要なタイプに分類されます:
- VCA方式:透明な制御、高速なアタック/リリース、汎用性が高い。代表機種:SSL G-Master Buss Compressor、dbx 160
- FET方式:色付けのある圧縮、高速なアタック/リリース、ボーカルやベース処理に適す
- オプティカル方式:段階的な圧縮、遅いアタック/リリース、自動設定による制御。代表機種:Teletronix LA2A
- Vari-Mu方式:調和歪を含む圧縮、遅いアタック/リリース、ソフトニー特性。代表機種:Fairchild Limiter、Manley ELOP
- PWM方式:最高精度の透明な制御、最速のアタック/リリース、マスタリング用途に適す。代表機種(プラグイン):Waves Kramer PIE Compressor、Tone Empire Pythor V2
各回路方式の特性を理解し、ミックスの目的に応じて最適なコンプレッサーを選択することが、プロフェッショナルなミックスの実現に必要です。複数のコンプレッサーを組み合わせることで、異なる圧縮特性を段階的に適用することが可能になります。

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