
「ドラムのEQをどれだけ触っても、なぜかスッキリまとまらない」と感じていませんか。
実は、原因の多くはEQそのものではなく、「ゲインステージング」「プリセットの把握」「フェーダーとパンだけのラフバランス」といった“EQ前の準備”にあります。
この記事では、キック・スネア・タム・シンバル・オーバーヘッドそれぞれの役割と帯域を整理しつつ、レイヤーやドラムバス処理まで、一貫した手順で「ひとつの楽器として気持ちよく鳴るドラム」を作る流れを具体的に解説します。
まずはステップ0の「EQ前に必ずやる前提作業」から順に読み進めて、自分のプロジェクトに当てはめながらチェックしてみてください。
ステップ0:EQの前に必ずやる「前提作業」
EQだけをいじっても、「そもそもレベルが高すぎてクリップしている」「バランスがめちゃくちゃ」という状態だと効果が分かりづらくなります。
EQの前に最低限やるべきこととして「ゲインステージング」と「バランス」が挙げられます。
0-1. 使用するプラグイン
Studio Drummer by Native Instruments
Studio Drummerは「3つの高品質なアコースティックドラムキット+本格ミキサー&エフェクト+大量のMIDIグルーヴ」がセットになったKontakt用ドラム音源です。

特徴:
- 3種類のトップクラス・アコースティックキット(プレミアムシンバルやパーカッション、各キット2種類のスネアを収録)。
- 約17GB(非圧縮換算で17GB超、圧縮後7.4GB)の24bitサンプル、最大25段階のベロシティレイヤーなど細かいサンプリング。
- 3,300以上のMIDIグルーヴとフィルをジャンル別に収録しており、ドラッグ&ドロップでDAWに貼り付けて編集可能。
- 近接マイク、オーバーヘッド、ルーム、モノラルキットマイク、スネアのボトム等まで個別に調整できる内蔵ミキサー。
- SOLID G-EQ、バスコンプ、Transient Master、テープサチュレーション、コンボリューションリバーブなどの高品質エフェクトを内蔵。
- Grooveのスウィングやタイトネス(ノリ)調整、再生速度変更など、打ち込みが苦手でもリアルなドラミングに近づける操作が可能。
今回の解説では、各トラックのEQ、サチュレーション系、空間系のエフェクトはバイパスしています。必要に応じて追加してください。
BATTERY 4 by Native Instruments(レイヤー用)
BATTERY 4は「レイヤー用ドラムサンプラー」としてかなり使いやすく、高速なキット構築と細かい音作りがしやすいプラグインです。

特徴:
- 1セルに複数サンプルを重ねられるレイヤー(Mapping Editor)機能があり、各レイヤーごとにピッチ・パン・ボリューム・エンベロープなどを個別調整できる。
- セル同士をまとめてレイヤー的に鳴らすこともでき、クリック用・ボディ用など役割分担したドラムレイヤーを簡単に構成できる。
- タグ式ブラウザとドラッグ&ドロップでサンプル読み込みが非常に速く、レイヤー候補の差し替え試行がしやすい。
- 7種類のサンプルモード(Standard / Vintage系エミュ / Stretch など)やタイムストレッチ(Time Machine Pro)で、レイヤー間のキャラクターを作り分けやすい。
- 各セル・バス・マスターにEQ, コンプレッサー, サチュレーション, Transient Masterなどのエフェクトを挿せるため、レイヤーした音をプラグイン内だけで完結して作り込める。
F6 Floating-Band Dynamic EQ by WAVES
F6 Floating-Band Dynamic EQは「6バンドのフルパラメトリックEQにダイナミクス機能を統合した、問題解決向けダイナミックEQ」です。

特徴:
- 6つのフローティング・バンドを任意の周波数に配置できるフルパラメトリックEQ。
- 各バンドごとにコンプレッション/エキスパンション(ダイナミックEQ)が可能で、しきい値を超えたときだけブースト/カットが働く。
- ステレオに加えてMS(Mid/Side)処理、内部/外部サイドチェイン、Split/Wideモードなど高度なルーティングに対応。
- ハイパス/ローパス、ベル、ノッチなどのフィルター形状、各バンドのソロ&サイドチェインモニターを搭載。
- ゼロレイテンシーかつ低CPU負荷で、スタジオだけでなくライブ用途にも向く。
Native Bus Compressor 2 by SSL
「Gシリーズ実機の“グルー感”を再現しつつ、現代向けの機能を足したバスコンプ・プラグイン」です。

特徴:
- SSL Gシリーズ・バスコンプを正確にエミュレートし、ミックスやバスに「接着感(グルー)」と「パンチ」を与える設計。
- 新しいアタック/リリース/レシオオプションにより、従来機よりも個別トラックやサブグループへの細かい調整がしやすい。
- ドライ/ウェットのミックスノブで簡単にパラレルコンプができ、ミックスの自然さを残しやすい。
- サイドチェインHPFと外部サイドチェイン入力を備え、キック・ベースでのポンピングを抑えたり、別トラックでトリガーしたりできる。
- 2x/4xオーバーサンプリングで高レベルの圧縮時の歪みを抑えつつ、SSL 360°やUC1などからのコントロールにも対応。
T-RackS Clipper by IK Multimedia
T-RackS Clipper(Classic T-RackS Clipper)は「ピーククリッピングでピークをならしつつ、倍音サチュレーションも付け足せる、シンプル操作のマスタリング向けクリッパー」です。

特徴:
- 通常のピークリミッターではなく「ピーククリッピング」でピークを抑えるため、うまく使うと比較的透明な音量稼ぎがしやすい。
- コントロールは「Gain / Slope / Output」の3つだけで、UIがシンプルで扱いやすい。
- Gainを上げてOutputを下げる設定にすると、軽い倍音付加〜はっきりした歪みまで、ハーモニックサチュレーションを積極的に付けられる。
- スネアやベースなどの弱い・ダイナミクスが不揃いなトラックを、存在感のある音に押し上げる用途や、マスタリングの最終段でのラウドネスアップに向く。
0-2. ゲインステージングの適正レベル
ゲインステージングは「プラグインに入るレベルを、だいたい–18dBFS前後の平均に保つ」といった目安を意識します(ハットやシンバル系は-22dBFS前後)。
- ドラムバスや各ドラムトラックのピークが、0dBFS近くに張り付いているなら、各トラックまたはバストラックの音量をを下げる。
こうすることで、ヘッドルームが広くなりEQ・コンプを余裕を持った状態で意図した動作にしやすくします。
0-3. プリセットの確認:既に何がかかっているか確認
ドラム音源のプリセットには、EQやコンプが最初からかなり入っているものが多く、そのまま上から同じ処理を重ねると不自然になります。
- まず音源内ミキサーを開き、各チャンネルのEQ・コンプ・サチュレーションがどのくらい入っているかを確認する。
- プリセットのEQ、サチュレーションは一度バイパスしてください。コンプは音源によっては必要になるので任意で決めてください。
基本的には「生の状態」もしくは「生の状態に近い」状態でEQを足していきます。
0-4. バランス:フェーダーとパンだけでざっくり整える
この丸裸になった音に対して、フェーダーとパンだけでラフなバランスを作ります。
その際は、オーバーヘッドを起点にして以下の内容を意識します。
- Overheads+Roomだけを聴き、スネアがセンター付近にいるか、キット全体のバランスが自然かを確認する。
- そこに不足しているKick・Snare・Toms・Cymbalsの存在感を足していき、「EQなしでも一応成立しているラフバランス」を作っておきます。
ここまで終わったら、ようやく「EQで細かく整える」フェーズに入ります。
ステップ1:各パートの役割をざっくり整理する
ドラム各パートの役割は次のように整理できます。
- キック:ローエンドとビートの土台。50〜80Hz付近のパンチと、2〜4kHzのアタックを担当。
- スネア:リズムの中心。150〜250Hzのボディと、3〜6kHzのスナップ(アタック)担当。
- タム:フィルや展開で前に出てくるロー〜ミッド担当(基音は100〜200Hz付近が多い)。
- シンバル系:クラッシュ・ライド・ハイハットなど、リズムのアクセントとハイエンド要素。
- オーバーヘッド:シンバルだけでなく、ドラムセット全体のステレオイメージを作るトラック。
この「役割分担」を頭に入れておくと、「すべてのパートで全部の帯域を出そうとしてゴチャゴチャになる」という失敗を避けやすくなります。
ステップ2:キックレイヤーの目的・選び方・EQ
準備中
2-1. なぜキックをレイヤーするのか
ドラムレイヤーの目的は「1つのサンプルでは足りない要素を、複数のサンプルで補うこと」です。
つまり、「80点だけど何かが足りないキックを、レイヤーで100点に近づける」というスタンスです。
主な目的は次の通りです。
- 不足している帯域を補う(ローが足りない/アタックが足りないなど)。
- Attack(立ち上がり)・Body(本体の太さ)・Tail/Sub(伸びる低域)を分けてコントロールする。
- ベースや他の楽器とかぶらないようにキャラクターを調整する。
2-2. メインキックの選び方
まずは、レイヤーする前に、単体で80%OKなメインキックを選ぶ」ことがスタート地点です。
- 曲のジャンル・テンポ・キーに合っていて、ローと中域のバランスが良いキックを選ぶ。
- 「アタック不足」「ローが薄い」「サステインが短い」など、何が足りないかを言葉にしておく。
2-3. 役割別キックレイヤー(Attack / Body / Tail)
キックを以下の3要素に分解してレイヤーする方法を紹介します。
- Attackレイヤー
- 2〜5kHzに強いアタックがある、クリック感重視のキック。
- 低域はあまりいらないので、後でEQで切り落とす前提。
- Bodyレイヤー
- 60〜120Hzあたりにしっかりした基音がある、太さ担当のキック。
- 多くの場合、これがメインキックになります。
- Tail/Subレイヤー(必要なときだけ)
- 808やサイン波系など、「伸びる低域」だけを補うレイヤー。
複数レイヤーでローを持たせるのは、位相リスクが高いのでローエンドは基本1つのレイヤーに任せましょう。
2-4. キックレイヤーの位相とタイミングを揃える
- 各レイヤーの波形の頭を、ゼロクロス付近(波形が0ラインを横切る点)に揃える。
- 必要に応じてPolarity(位相反転)を試し、ローエンドが最も太く・はっきり聞こえる組み合わせを選ぶ。
- それでもアタックがぼやける場合は、1〜2ms程度の短いフェードインや微妙なディレイ調整で、トランジェントを合わせる。
2-5. キックレイヤーのEQ:帯域ごとに役割を固定する
各レイヤーに担当帯域を割り振ってEQする方法を紹介します。
- Bodyレイヤー
- 60〜80Hzあたりのローをメインにし、必要なら軽くブースト。
- ローが主役なので、低域は残しつつ超低域やいらない高域がある場合はハイパス/ローパスで落とす。
- 2〜5kHzは最小限にして、アタックはAttackレイヤーに任せる。
- Attackレイヤー
- 2〜5kHzのアタック帯域を活かし、100Hz以下はハイパスでしっかりカット。
- 低域を切ることで、ローの位相問題や濁りを減らす。
- Tail/Subレイヤー
- 必要な基音(例:50〜60Hz)周辺だけ残し、上の帯域はローパスやEQで落とす。
ステップ3:スネアレイヤーの目的・選び方・EQ
3-1. スネアを「Body / Crack / Noise」
スネアでは「Body(胴)」「Crack(アタック)」「Noise(ノイズや空気)」の3要素に分けて「1つのスネアに足りない要素を別サンプルで補って新しい1音を作る」方法が紹介します。
- Body:150〜250Hz付近のボディ感が気持ちいいスネア。
- Crack:3〜6kHz中心のアタックが強いスネアやクラップ。
- Noise:8〜12kHz付近のザラつき・空気感(ノイズやシェーカー的な音)。
3-2. メインスネアを決めて不足分だけレイヤーする
まずは、曲に合うメインスネア(Body担当)を1つ決めます。
- 単体で“ほぼOK”なスネアを1つ選び、リズムの中心として使う。
- 「もう少しアタックが欲しい」「ハイのザラつきが欲しい」など、足りないポイントを明確にする。
- その要素だけが強いCrackやNoiseレイヤーを薄く足す。
3-3. スネアレイヤーのステレオ感とタイミング
ここでは、モノラルのBodyスネアにステレオのNoiseレイヤーを足して広がりを出す手法を紹介します。
- Bodyレイヤー:センターに置くモノスネアで、芯とボディを担当。
- Crack・Noiseレイヤー:ステレオ感のあるサンプルを使うか、ステレオ化して広がりを少し足す。
- 全レイヤーのトランジェントは基本同じ位置に揃えて、必要なら数ms単位で微調整して、パンチとまとまりを両立させる。
3-4. スネアレイヤーのEQ:帯域を住み分ける
スネアレイヤーの帯域の住み分けは次の通りです。
- Bodyレイヤー
- 150〜250Hzのボディを主役にし、3〜6kHzは控えめに。
- 100Hz以下のローは、必要に応じて少し整理。
- Crackレイヤー
- 3〜6kHzをしっかり残し、150Hz以下はハイパスでカット。
- 必要なら8kHz以上を少し上げて“パシッ”とした抜けを足す。
- Noiseレイヤー
- 8〜12kHz付近の成分だけ残るよう、ハイパス+ローパスで帯域を絞る。
最後に、これらのレイヤーをバスにまとめて、軽いコンプやサチュレーションを通すと、「別々のサンプル」ではなく「ひとつのスネア」としてまとまりやすくなります。
ステップ4:タムのEQとバランス
タムはシンバルのかぶりが多く処理が難しいパートです。
ソロではなく、必ずオーバーヘッドと一緒に聴きながらEQすることが必須です。
- ローカット:不要な超低域を軽くカットして、キックとローがかぶりすぎないようにする。
- 100〜200Hz:タムごとの基音を少しブーストして、フィル時の迫力を出す。
- 300〜600Hz:こもりや紙っぽさを感じたら少しカット。
- 5kHz前後:アタックが足りない場合に少しブースト。
タムはEQだけではなくGateやマルチバンドツールを使い、「タムのボディ帯域だけを長めに残し、シンバルがうるさい帯域を早めに閉じる」といった処理も必要です。
ステップ5:シンバル系とオーバーヘッドの住み分け
5-1. オーバーヘッドは「キット全体のステレオ像」
オーバーヘッドは、シンバル用マイクではなく「ドラムセット全体のステレオイメージ」として扱います。
オーバーヘッドEQの基本は以下です。
- ローカット:100〜200Hzあたりまでを目安にローを整理しつつ、スネアやタムのボディが急に痩せない位置で止める。
- 4〜6kHz:シンバルが耳に痛いときはワイドに少しカット。
- 8〜12kHz:空気感やツヤが欲しいときに軽くブースト。
5-2. シンバル系トラックは「足りない分だけ補強」
シンバルのクローズマイクは「オーバーヘッドで足りない部分を補う」用途で使います。
- ローカット:100〜300Hzまでしっかり切り、不要なローエンドを削る。
- 4〜6kHz:クラッシュやライドを前に出したいならブースト、うるさいならカット。
- 10〜12kHz:きらびやかさを足したいときに軽くブースト。
オーバーヘッドとシンバルトラックの両方でハイを強く上げると耳障りになりやすいので、「どちらを主役にするか」を決めてから触るのが安全です。
ステップ6:帯域マップとドラムバスでの仕上げ
6-1. 帯域マップ(目安)
ここまでの内容をまとめると、次のように整理できます(数値はあくまで目安です)。
帯域の目安 | 主なパート | 役割のイメージ |
|---|---|---|
50〜80 Hz | キック・タム | ローエンドの土台とフィルの迫力。 |
100〜200 Hz | キック・スネア・タム | ボディと太さ。どれを主役にするか決めて整理。 |
200〜400 Hz | 全パーツ | こもり・箱鳴り。必要に応じて少しカット。 |
3〜6 kHz | スネア・タム・シンバル系 | アタックとプレゼンス。 |
8〜12 kHz | オーバーヘッド・シンバル系 | 空気感とツヤ。 |
6-2. Drum Busで「ひとつの楽器」にまとめる
Drum Busの役割は「音作りの主戦場」ではなく、すでに整えたキック・スネア・タム・シンバル・オーバーヘッドを、ひとつのドラムセットとして薄く“接着”する場所です。
Drum Bus EQ:全体のローとハイを微調整する
Drum Bus上のEQは、極端な処理ではなく全体のトーンを少し整える用途です。
- ローカット(HPF):
- 20〜30Hz付近を目安に、ごく浅くハイパスして「耳ではほとんど感じない超低域」だけを整理するイメージです。
- 個別トラック側でロー整理をしている前提なので、ここで大きく削らないようにします。
- ロー~ローミッドの調整:
- 全体が濁って感じるときは、200〜300Hzあたりを1〜2dBだけにカットして、少しだけクリアにします。
- ハイシェルフ:
- 全体の抜けが欲しいときは、8〜10kHzあたりから 1〜2dBだけシェルフで持ち上げると、一気に一体感と迫力が出ます。
どれも「1〜2 dB程度」「Qも広め」の、本当に軽い調整に留めるのがコツです。
Drum Busコンプ:グルー(接着)として薄くかける
Drum Busのコンプは「グルー感」を出すために使います。
- 比率(Ratio):2:1前後の低い比率。
- アタック:20〜30ms程度で、キック・スネアのアタックが潰れないようにする。
- リリース:曲のテンポに合わせて中速〜やや速め(例:100〜300ms程度)に設定し、リズムに合わせて戻るように調整する。
- ゲインリダクション量:ピークで2〜4dB程度に留め、「常に6〜8dB押しつぶす」ような使い方は避けます。
目的は、「アタックを残したまま、持続部分を少しだけ寄せて、キット全体の一体感を出すこと」です。
Drum Busコンプレッションは「パンチを殺すためではなく、まとまりと安定感を出すためのもの」という位置づけです。
サチュレーション/軽いクリップで“太さ”とピーク整理
Drum Busにサチュレーションを少しだけ足すことで「ピークをなだらかにしつつ、体感的な太さ(RMS)を上げる」使い方を紹介します。
ここでは、
- サチュレーションの目的
- どのくらいかけるかの“耳での判断”
- 一度Driveを上げて、明らかに歪んだと感じるポイントまで行ってから、少し戻すという決め方が一番わかりやすいです。
- そのとき、
- キック:ローが太くなるがモコらないか
- スネア:アタックが前に出るがバリバリしすぎないか
- シンバル:ハイがザラつきすぎないかをドラムバス全体で聴きながら、DriveとMix(Dry/Wet)を微調整します。
- クリッパー(ソフトクリップ)で瞬間ピークだけ整理する
- 目的:コンプのようにずっと押しつぶすことではなく、「アタックの形は保ったまま、ほんの少し頭を丸めて安全マージンを作る」ことです。
- 具体的:スレッショルドを0dBFSより少し下(例えば -2〜-3dBFS周辺)に置き、クリップで押さえた後にDrum Bus全体を1〜2dBほど下げることで、十分なヘッドルームを残すことができます。
このサチュレーションと軽いクリップは、「個別トラックでほぼ作り終えたドラム」を最後にひとまとめにして、「見た目のピーク値以上の密度と迫力を出す」ための仕上げとして考えてください。
7. 効果がわからないときは?
EQを1つだけオン/オフしても、「正直、何が変わったのか分からない…」というのはごく普通のことです。
特にドラムのように音量も情報量も多い素材では、単発のEQだけで変化を感じ取るのは難しくなります。
変化を確認するときは、次の2点を意識してください。
- 複数の処理をまとめてバイパスする
- EQ、Drum Busコンプ、サチュレーション、クリッパーなど、「ドラムにかけている一連のプラグイン」をグループ化して、まとめてバイパスのオン/オフを切り替えます。
- 1つ1つの変化は小さくても、全部まとめてオフにすると「急に薄い/バラバラ」「急に落ち着きがなくなる」といった“全体の違い”が体感しやすくなります。
- 必ず「音量感」をそろえてから比べる
- プラグインをオンにすると、処理の有無とは別に音量だけが大きく(または小さく)なることがよくあります。
- アウトプット(出力)ゲインを調整して、「バイパス時とほぼ同じ音量」にそろえてからオン/オフを比べてください。
- 自分の耳にあまり自信がない場合は、VUメーター(またはRMSメーター)を挿して、オン/オフ時の針の位置(平均レベル)が大きく変わっていないかを目で確認しながら調整すると、より安全に判断できます。
「音量がほぼ同じ状態で、質感だけがどう変わっているか?」に意識を向けると、EQのカット/ブーストやコンプ・サチュレーションの効果が、少しずつ見えてきます。
8. よくある質問
- QdBFSって何ですか?メーターのどこを見れば「-18dBFS前後」か分かりません。
- A
dBFSはDAWのトラックメーターに表示される「デジタルの音量の単位」です。 ピークを-18dBFS前後にすることでバランスがとりやすくなります。もし、腑に落ちないときは各トラックのコンプを再度調整してみてください。
- Qゲインステージングの「平均-18dBFS」と、ドラムバスの「スレッショルドを-2〜-3dBFS」に置く話は、どちらを優先すればいいですか?
- A
まずは、各トラックのゲインステージング(平均-18dBFS前後)を整えてから、最後の仕上げとしてドラムバスにクリッパーを挿し、-2〜-3dBFSあたりでピークだけ軽く押さえる、という順番で考えます。
- Qキックやスネアをレイヤーするとき、「ゼロクロスに揃える」は具体的にどうやればいいですか?
- A
オーディオ波形を拡大して、波形が0ラインを横切っている位置(ゼロクロス)を探し、各サンプルの頭をそこに合わせてカット・配置します。 その上で、必要に応じて数ms単位で前後にずらして、アタックが一番はっきりする位置を探します。
- QキックのAttack / Body / Tailを分けるとき、3トラック必ず用意しないとダメですか?
- A
いいえ、必ず3トラックに分ける必要はありません。 まず「単体で80%OKなメインキック」を1つ決めて、そのキックに足りない要素(アタックだけ、ローだけなど)だけを別トラックで足す、という発想で大丈夫です。
- QスネアのNoiseレイヤーは、どのくらいの音量で入れればいいか分かりません。
- A
Noiseレイヤーは「単体で聴くと細かく聞こえるけれど、ミックス全体だと“なんとなくツヤが増えた”程度」に抑えるのが前提です。 具体的には、最初は大きめに上げてから、うるさいと感じなくなるまでフェーダーを少しずつ下げるやり方が分かりやすいです。
- QタムをEQするとき、「必ずオーバーヘッドと一緒に聴く」のはなぜですか?ソロで調整した方が分かりやすくないですか?
- A
ソロでタムだけ聴くと、シンバルとのかぶり具合やキット全体でのバランスが分からないため、実際の曲の中では不自然な音になりやすいからです。 オーバーヘッドと一緒に聴きながらEQすることで、フィルの迫力を保ちつつ、シンバルのうるささも同時に確認できます。
- Qオーバーヘッドとシンバルの両方でハイを上げると耳障りになると言われても、「どちらを主役にするか」の決め方が分かりません。
- A
基本は、オーバーヘッドを「キット全体のステレオ像」として主役にし、シンバルのクローズマイクは「足りないシンバル成分だけを補う」役として控えめに使う考え方が安全です。 まずオーバーヘッドだけでバランスを作り、そこから「このクラッシュだけ足りない」など必要な部分だけ個別トラックで足します。
- QDrum BusのEQやコンプは「薄く」と書かれていますが、どのくらいが「やりすぎ」ですか?
- A
EQなら1〜2dB以上ガッツリ上げ下げし始めたら「やりすぎ」のサイン、コンプなら常に6〜8dB以上のゲインリダクションがかかっている状態はやりすぎと考えて良いです。 Drum Busは「個別で作った音を少しだけ接着する場所」として、控えめな調整にとどめるのが前提です。
9. まとめ
ドラムEQは、「ゲインステージングとラフバランス → 各パートの役割整理 → キック/スネアのレイヤー → タム・シンバル・オーバーヘッドの住み分け → ドラムバスでの接着」という流れで組み立てる。
まずはプリセットの処理を確認し、各トラックを-18dBFS前後(シンバル系は-22dBFS前後)に揃え、フェーダーとパンだけでEQなしでも成り立つ土台を作る。
キックとスネアは「単体で80%OKなメイン+不足分だけレイヤー」という考え方で、帯域ごとに役割を分けてEQし、位相とトランジェントを揃える。
タムとシンバルは必ずオーバーヘッドと一緒に聴き、「オーバーヘッド=キット全体」「クローズ=足りない分だけ補強」という主従を守って濁りと耳障りなハイを防ぐ。
仕上げはDrum Busで1〜2dB程度のごく軽いEQとコンプ、少量のサチュレーション/クリップだけにとどめて、「作り込んだ個別トラックをひとつの楽器として接着する」役割に徹する。
こうすることで、余裕のあるヘッドルームを確保できているので、他の楽器が入ってきても後処理が格段に楽になります。
著者について
NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)
- 業界経歴:1995年~2010年
- セッション実績:200本以上
- 対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music

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