イコライザー(EQ)入口編③ボーカル・ドラム・ベース帯域マップ

コンプレッサー編 6 ・イコライザー
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ミックスのどこをいじれば「こもり」「刺さり」が消えるのか、EQの前で手が止まっていませんか。


もし「なんとなく波形を眺めて、勘でノブを回しているだけかも」と感じるなら、帯域を耳と目でセットで覚えるタイミングです。


この記事では、ボーカル・ドラム・ベースを題材に、「薄い」「こもる」「刺さる」といった症状から、狙うべき周波数帯をすぐに絞り込むための帯域マップを用意しました。


読み終わるころには、「この症状ならこの帯域」という判断を、自分のEQ画面と結びつけてすぐに試せるようになっているはずです。

1. 「耳と目」で帯域を覚える

人間の可聴帯域はおよそ20Hz〜20kHzで、そのままだと扱う情報量が多すぎるため、帯域をいくつかの範囲に分けて解説しています。

この記事では、その帯域を EQ 画面上の位置と「音の症状」(こもる・刺さる・聞こえない など)で結びつけながら、人の声・ドラム・ベースを例に「どんな時にどの帯域を触るか」を整理します。


2. 周波数帯のマップを作る

可聴帯域を複数のレンジに分け、それぞれの特徴を説明します。
通常20Hz〜20kHzをいくつかの「性格の違う帯域」として扱います。

主な帯域の性格は次のとおりです。

  • 20Hz〜60Hz:
    サブベース。体で感じるような低域成分で、音楽の「揺れ」「重低音」に影響します。
  • 60Hz〜250Hz:
    ベース/ローエンド。キックやベースの基音が含まれ、厚みや重さを与えます。
  • 250Hz〜500Hz:
    ローミッド。この帯域は「こもり」「箱鳴り感」に影響します。
  • 500Hz〜2kHz:
    ミッド。多くの楽器の基音や重要な情報が集中し、聞こえ方の中心を担う帯域です。
  • 1.5kHz〜4kHz:
    アッパーミッド。耳が最も敏感で、ボーカルやスネアのプレゼンスインテリジビリティに重要な帯域です。
  • 6kHz〜9kHz:
    シビランス帯。このレンジに「サ行」の歯擦音があり、強すぎると刺さるが、明瞭度にも影響します。
  • 9kHz〜16kHz:
    エアー・スパークル。この帯域を少しブーストすると、エアーキラメキが付加ミックスが開けた印象になります。

このマップを前提として、各楽器がどこにまたがっているかを見ていきます。


3. ボーカル帯域マップ

3-1 ボーカルの主要レンジ

ボーカルの基音とボディは、主に100〜400Hz付近にあり、ここにボーカルの暖かさがあります。

また、1.5〜4kHz はボーカルのプレゼンスインテリジビリティを決める帯域、そして、6〜9kHzはシビランス帯、さらに上のレンジはエアー感として扱います。

帯域マップとして整理すると、次のようになります。

  • 約100〜400Hz:基音・ボディ・暖かさ。
  • 約250〜500Hz:こもり・箱鳴りが出やすいレンジ。
  • 約1〜4kHz:明瞭度・前に出る感じ(インテリジビリティ)。
  • 約6〜9kHz:シビランス(歯擦音)。
  • 約9〜16kHz:エアー・スパークル(高域の空気感)。

3-2 どんな時にどの帯域を触るか

  • 声が「薄い」「弱い」
    • 触る帯域:100〜400Hz(ボディ・暖かさ)。
    • 変化:このレンジを少し持ち上げると、ボーカルの厚みと暖かさが増し、弱々しさを補えます。
  • 声が「こもる」「箱鳴りする」
    • 触る帯域:250〜500Hz(ローミッド)。
    • 変化:ここを軽くカットすると、こもりやボックス感が減り、抜けが良くなります。
    • この帯域を過剰に持つとミックスがこもり / 箱鳴り傾向になります。
  • 歌詞が「聞き取りづらい」「前に出ない」
    • 触る帯域:1.5〜4kHz(アッパーミッド)。
    • 変化:軽いブーストでボーカルのインテリジビリティプレゼンスが向上しますが、過剰なブーストは破綻の原因になります。
  • サ行が「刺さる」「耳に痛い」
    • 触る帯域:6〜9kHz(シビランス)。
    • 変化:ディエッサーや EQ でこのレンジを抑えると、s・sh などの歯擦音の刺さりが緩和されます
    • このレンジがシビランスの主な帯域です。
  • 高域が「くすんでいる」「抜けが足りない」
    • 触る帯域:9〜16kHz(エアー)。
    • 変化:少しブーストすると、ボーカルに明るさとエアー感が加わり、ミックスが開けた印象になります。

4. ドラムの帯域マップ:キック・スネア・シンバル

4-1 キックドラム

50〜125Hzには、キックとベースの基音があり、ここで両者の関係が決まります。
また、125〜350Hzはキックとベースのオーバートーン、およびギターやスネアの基音が重なるローミッド帯です。

キックの帯域マップ:

  • 50〜125Hz:基音・ボディ(パンチ・重さ)。
  • 125〜350Hz:ローミッド(濁りやすい帯域)。
  • 1.5〜4kHz:アタック・打点(耳が最も敏感な帯域の一部)。

どんな時にどこを使うか:

  • 迫力や重さが足りない → 50〜125Hzを適度にブーストしてボディを強調。
  • 低域が「ボワッ」とする → 125〜350Hzを軽くカットして濁りを整理。
  • 打点が聞こえない → 1.5〜4kHzを少しブーストしてアタックを明確にする(破綻に注意)。

4-2 スネアドラム

125〜350Hzにスネアの基音が含まれ、1.5〜4kHzはスネアのプレゼンス帯域です。

スネアの帯域マップ:

  • 125〜350Hz:ボディ(胴鳴り・重さ)。
  • 1.5〜4kHz:スナッピーさ・抜け。

使用例:

  • スネアが軽くて芯がない → 125〜350Hzをブーストしてボディを補う。
  • スネアが抜けない → 1.5〜4kHzを少し持ち上げてスナッピーさを出す。

4-3 シンバル/ハイハット

6〜12kHzは「輝き感」を。​また、12kHz以上は「エアー感」が強調でき、双方のバランスをとることで「キラメキ」と「空気感」音に仕上げることができます。

シンバルの帯域マップ:

  • 約6〜12kHz:ブリリアンス・輝き。
  • 12kHz〜:エアー・広がり。

使用例:

  • 暗くて抜けない → 6〜12kHzを軽くブーストして輝きを追加。
  • シャリシャリして耳に痛い → 同じレンジを少しカット、またはピークのみを抑える。

5. ベース

ベースなどの低音楽器の基音が40Hz付近から始まり、60〜250Hzがリズムセクションのローエンドを担う帯域です。

同時に、250〜500Hzのローミッドは、過多で「箱鳴り感」が強調され、不足で「スカスカ」な空洞っぽい音になります。

ベースの帯域マップ:

  • 40〜120Hz:基音・ローエンド(低域の土台)。
  • 250〜500Hz:ローミッド(濁り・膨らみ)。
  • 500Hz〜2kHz:ハーモニクス・輪郭。特に700〜900Hz 付近は小さいスピーカーでの存在感を補うために使えるレンジとして役立ちます。

どんな時にどこを使うか:

  • ベースの存在感がない
    • 低域が出る環境:40〜120Hzを適切に整える(足りなければブースト、過多ならカット)。
    • 小さいスピーカーで消える:700〜900Hz付近を少し持ち上げて、ハーモニクスで輪郭を強調。
  • ミックス全体が「モコモコ」する
    • 触る帯域:250〜500Hz。
    • 変化:ここを軽くカットすると、ベースの濁りとミックス全体の「箱鳴り感」が軽減されます。

6. 帯域がぶつかるポイント

6-1 キックとベース:50〜125 Hz

50〜125Hzはキックとベースの基音の帯域とし、マスキングが起きやすい場所です。
キックとベースの基音が重なるとき、互いの基音をずらしたり、一方をカットして他方を強調する方法が最も一般的です。

どんな時に何をするか:

  • 低域が「ごちゃごちゃして輪郭がない」
    • キックとベースのどちらを50〜125Hzの主役にするか決める。
    • 例:ベースの基音に合わせつつ、キックの同じ周波数を少しカットし、キックは別の帯域(やや上のロー)やアタック帯で存在感を出すと輪郭が出やすいです。

6-2 ボーカルと他の楽器:1.5〜4 kHz

1.5〜4kHzは「耳が最も敏感で、ボーカルやスネアのプレゼンス、音の情報量を左右する帯域」とし、この帯域に過剰なエネルギーがあると音は破綻していきます。

また、2〜6kHzはボーカルや打楽器のアタック・明瞭度の中心で、歯擦音が強調され過ぎないよう注意してください。

どんな時に何をするか:

  • ボーカルがギターやスネアに埋もれる
    • ボーカル:1.5〜4kHzを少し持ち上げる。
    • ギター・スネア:同じ帯域を少し引いてスペースを空ける。
  • ミックス全体が「きつい」「耳が疲れる」
    • 1.5〜4kHz周辺に過剰なピークがないか確認し、必要に応じて各トラックで抑える。

7. 実践:「耳と目」でマップをリンクさせる

アナライザー付きEQや専用プラグインを使い、視覚情報と聴覚情報を組み合わせる方法が最も効果的です。

基本的なステップは次のとおりです。

  1. スペクトラムアナライザー付きのEQや、帯域別にレベルを表示するプラグインをトラックに挿す。
  2. ボーカル・キック・ベースを単独再生し、「薄い」「こもる」「刺さる」「聞こえない」と感じた瞬間に、画面上でどの帯域が山になっているかを見る。
  3. 本記事の帯域マップを参照しながら、そのレンジを数dB単位でブースト/カットし、音の変化と周波数の位置をセットで覚える。

8. よくある質問

Q
周波数レンジの数値は、どれくらい厳密に守るべきですか?
A

厳密な「正解値」ではなく、あくまで目安の範囲と考えるべきです。楽器や声質、アレンジによってピークの位置は前後するので、「この辺りを中心に探る」ためのガイドとして使うのが現実的です。

Q
250〜500Hzはボーカルもベースも「こもり」「箱鳴り」の帯域と書かれていますが、どちらを優先してカットすればいいですか?
A

どの楽器を前に出したいかで優先度が変わります。一般的には、ボーカルの明瞭さを優先したい場合はベースやドラム側を少し多めに削り、ボーカルは最小限の処理に留めるケースが多いです。

Q
1.5〜4kHzはボーカルにもスネアにも重要とありますが、両方をブーストすると耳が痛くなりませんか?
A

その通りです。同じ帯域を複数トラックで大きく持ち上げると「きつい」音になりやすいです。この帯域では、「誰を主役にするか」を決めて、主役以外は少し抑える形でバランスを取る必要があります。

Q
6〜9kHzは「明瞭度にも関与」とありますが、シビランスが怖くて触りにくいです。どう使い分ければいいですか?
A

6〜9kHzの広い帯域を一括で上げると歯擦音も一緒に強調されます。明瞭度を少し足したい場合は、ピークを狭めに設定して控えめにブーストし、逆に刺さる部分はディエッサーやナローなカットで対処するのが安全です。

Q
ベースの40〜120Hzとキックの50〜125Hzがかぶっていますが、実際にはどうやって「主役」を決めればいいですか?
A

曲の役割で判断します。例えば「キックが曲を引っ張る」スタイルなら、キックの基音付近を残し、ベースの同じ帯域を少し抑えます。逆にベースラインが主役なら、ベース側を優先し、キックはアタック帯(1.5〜4kHz)で存在感を出す、という整理の仕方になります。

Q
「小さいスピーカーでベースが消える時は700〜900Hzを持ち上げる」とありますが、なぜその帯域なのですか?
A

40〜120Hzのような低域は小型スピーカーでは再生されにくい一方、700〜900Hz付近のハーモニクスは再生されやすいからです。この帯域を少し持ち上げると、低域そのものではなく、その倍音成分によってベースの存在を「錯覚的に」感じやすくなります。

Q
「薄い」「こもる」などの主観的な表現を、どうやって自分の耳で判断できるようになりますか?
A

単独再生しながら、この記事にある帯域をあえて大きくブースト/カットして、どのように聞こえ方が変わるかを体験的に覚えるのが近道です。その上で、実際のミックスでは±2〜3dB程度の小さな変化で微調整していくと、「症状と言葉」の対応が徐々に安定してきます。

Q
「ミックス全体がきつい/耳が疲れる」とき、1.5〜4kHz以外は見なくていいのですか?
A

1.5〜4kHzは最も疑うべき帯域ですが、それだけが原因とは限りません。2〜6kHzの広い範囲で複数トラックが積み上がっている可能性もあるので、まず1.5〜4kHzをチェックし、それでも違和感があれば周辺帯域も合わせて確認する必要があります。

9. まとめ

今回提示している周波数レンジは、楽器やコンテキストによって最適な処理は変わりますので「ガイドラインであってルールではない」ことは理解しましょう。​

それぞれの帯域に「多すぎるとこう、少なすぎるとこう」という傾向を示しつつ、最終的には耳で確認して調整することを前提です。

この帯域マップは、「特定の症状が出たときに、まず疑うべき帯域」を絞り込むための起点として使い、最終判断は必ず実際の音を聴きながら行う、という使い方が現実的です。

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