
本記事では、
- ダイオード・ブリッジ方式の「回路の仕組み」と「音響的な特徴」
- 代表的なVSTプラグイン7種の機能と評価
- FET、VCA、真空管、PWMとの得意・不得意の比較
- 操作手順と各パラメータの変化を聴き取るコツ
- ソース別・実践的な設定例
- お勧めしない使い方
- よくある質問
を、実践的な目線で整理していきます。
1. ダイオード・ブリッジ方式コンプレッサーの特徴
回路設計の基本原理
ダイオード・ブリッジ方式は、4つ以上のダイオードをブリッジ回路で配置し、可変減衰(コンプレッション)を実現する方式です。
ダイオードは通常一方向にしか電流を通しませんが、特定の電圧範囲(シリコン・ダイオードの場合0.4V~0.6V付近)では導通率が変化します。この特性を利用して電圧制御アッテネーターとして動作させることで、コンプレッションが可能になります。
音響的特徴
ダイオード・ブリッジ方式の最大の特徴は、倍音を豊富に含む、太く質感のあるサウンドです。
VCAコンプレッサーのような明瞭さを追求するのではなく、「微妙で滑らかな圧縮」から「アグレッシブでオーバードライブされたスタイル」まで音楽的なキャラクターと色彩感を付加することに優れています。
歴史的背景
Rupert Neve氏がテレビ局用として1960年代後半に開発したNeve 2252/2254が、ダイオード・ブリッジ方式の代表的製品です。当時のPWM方式(Pye社)に代わる方式として開発され、その後Neve 33609などへと発展しました。
1980年代初頭から製造されているNeve 33609は、設計が何度も変更され、スタジオダイナミクスの参照標準として浮上した人気のあるダイオード・ブリッジ・コンプレッサー/リミッターです。
約50年以上が経過した現在でも、この方式は人気があり、各社から2254にインスパイアされたアウトボードやプラグインがリリースされています。
2. 代表的なモデルをエミュレートしているVSTプラグイン
すべてのプラグインが同じ機能を持っているわけではありません。ここでは代表的なモデルの特徴を整理します。
Waves V-Comp
Neve 2254をモデリングした公式エミュレーションプラグインです。2254のダイオードブリッジ・ゲイン技術とトリプルトランスフォーマー設計をコンポーネントレベルでモデル化しています。
UAD Neve 2254/E
Universal Audioによる2254の詳細なエミュレーションです。Neve 80シリーズのサービスマニュアルを研究し、実機のアンプ/フィルター特性を忠実に再現しています。
Lindell Audio 254E
Plugin Allianceから提供されるNeve 2254 “E”バージョンのエミュレーションです。1968年にモジュールとして登場した2254の温かみとキャラクターを再現しています。
Arturia Comp DIODE-609
Neve 33609をエミュレートした再設計プラグインです。2段階のコンプレッサー/リミッター構成を再現しています。
KIT Plugins BB N54
2024年12月リリースの新しいNeve 2254エミュレーションです。Blackbird Studioとの共同開発で、John McBrideの個人的な好みに調整されています。
Heritage Audio SUCCESSOR
Heritage AudioのハードウェアSuccessorのプラグイン版です。Neve 2254系統のブリティッシュ・ダイオードブリッジ設計です。NUKE機能で+20dBを入力前に追加し、極端な反応を引き出しし、出力段で+20dBまでのメイクアップゲイン調整可能な特徴的なプラグインです。
UAD Neve 33609
Neve 33609/Cのリフレッシュされたエミュレーションです。
3. 得意なこと、不得意なこと
ダイオード・ブリッジの得意なこと
音楽的なキャラクター付加
全コンプレッサータイプの中で最もカラフルでキャラクターが豊富です。厚み、クリーミーさ、大きさを加えることができます。デジタル時代に最適な色彩感を持っています。
ミックスバス処理
ミックスに重厚感と一体感をもたらします。パンチと厚みを同時に付加できます。約50年以上にわたって無数のヒットレコードで使用されてきました。現代ではマスタリングリグでも使用されます。
特定楽器への適用
ボーカル、エレクトリックギター、ベース、ドラムをミックスの最前面に押し出すのに効果的です。ドラムバス、パーカッション素材に最適です。スネアに独特のスナップを加えます。
倍音付加
ダイオード特有の倍音歪みによる音楽的な質感が得られます。トランスフォーマー設計による低域倍音の付加も可能です。
ダイオード・ブリッジの不得意なこと
透明性が必要な用途
VCAやPWMと比較して色付けが強いです。クリーンで透明なコンプレッションには不向きです。
ノイズフロア
古い設計では40dB減衰が必要でノイズが問題になりました。現代の設計では改善されていますが、VCAやPWMよりノイズフロアが高い傾向があります。
適用素材の選択性
すべての音源に合うわけではありません。素材に合えば素晴らしいですが、合わない場合は使えません。
各方式との比較
vs. VCA
- VCA:最も柔軟で多用途、クリーンで透明
- ダイオード:より音楽的でキャラクター豊富ですが透明性は低い
- VCA:精密なコントロールが可能
- ダイオード:独特の非線形特性による音楽性がある
vs. FET
- FET:非常に高速で攻撃的、”crack”サウンド
- ダイオード:より丸く、”thwack”サウンド
- FET:トランジェント処理に優れてる
- ダイオード:FETに似た色合いですが、異なるキャラクター
vs. 真空管(Vari-Mu)
- Vari-Mu:滑らかで音楽的、非常に遅い反応
- ダイオード:より高速で攻撃的なキャラクター付加が可能
- Vari-Mu:グルーとして1-3dBの軽いリダクション向き
- ダイオード:より積極的なダイナミクスコントロールも可能
vs. Optical(光学式)
- Optical:透明で温かみがあり、遅いレスポンス
- ダイオード:より高速でパンチのある特性
- Optical:トランジェントコントロールには不向き
- ダイオード:トランジェント制御も可能(設定による)
vs. PWM
- PWM:VCA/FETに似ますが最もクリーン、ほぼ無色
- ダイオード:最も色彩豊か
- PWM:音を全く着色したくない場合に最適
- ダイオード:積極的なキャラクター付加が目的
用途別推奨
ダイオード・ブリッジが最適な場合
- ミックスバスへの一体感とパンチの付加
- ドラム、ベース、ボーカルのトラッキング
- 倍音豊かなトーンが必要な場合
- デジタル録音への温かみの付加
他の方式が推奨される場合
- 完全に透明なコンプレッション:VCAまたはPWM
- 超高速トランジェント処理:FET
- 滑らかなバスグルー:Vari-Mu
- 自然で遅い反応:Optical
4. 操作手順と変化を聴き取るコツ
基本的な操作手順
ステップ1: 適切な入力レベルの設定
ダイオード・ブリッジ方式では入力レベルが極めて重要です。
- RND 535/5254の場合:+14~+18dBm程度で入力してください
- V-Compなどプラグインの場合:-18dBFS = 0VU程度を目安にします
- 入力が不足すると本来のキャラクターが得られません
- 適切なレベルで入力することで倍音特性が最も効果的に現れます
プラグインの場合の注意点
V-Compは固定スレッショルド設計のため、入力レベルとレシオの組み合わせでゲインリダクション量を決定します。入力トリムプラグインを前段に挿入し、適切なレベルに調整することを推奨します。
ステップ2: 初期設定の確立
RND 535/5254を例にした推奨初期設定です:
- Threshold: 最大位置から開始
- Ratio: 2:1から開始
- Timing: Medium(中程度)
- Blend: 100%(フルウェット)
- Gain: 0dB
この設定から微調整を開始します。
ステップ3: スレッショルドの調整
- スレッショルドを徐々に下げます
- VUメーターで2-4dBのゲインリダクションを目標にします
- ミックスバスの場合は2-4dB、積極的なコントロールでは6-8dBです
- Neve 2254のスレッショルド範囲:-20dBu~+10dBu(2dBステップ)
- RND 535/5254のスレッショルド範囲:-25dBu~+20dBu(31ポジション)
ステップ4: レシオの選択
Neve 2254系の場合、利用可能なレシオは以下です:
- 1.5:1:最も穏やか、自然なダイナミクス維持
- 2:1:標準的なバスコンプレッション
- 3:1:より積極的なコントロール
- 4:1:明確なコンプレッション
- 6:1:部分的リミッター動作
RND 535/5254では8:1も選択可能です。
推奨アプローチ:
- バス/ミックス処理:2:1または3:1で開始
- 個別トラック:素材に応じて3:1~6:1
ステップ5: タイミング(アタック/リリース)の調整
RND 5254のTiming設定と用途です:
Fast / MF(Medium Fast)
トランジェント重視の素材に最適です。ドラム、プラッキング楽器、明瞭な発音のボーカルに使います。より速いアタック/リリースで積極的な制御が可能です。
Med(Medium) / MS(Medium Slow)
やや遅いアタック/リリースです。より多くのトランジェントを通過させます。汎用的な設定です。
Slow / Auto
非常に遅い設定です。滑らかなレベルコントロールが目的の場合に使います。Autoは素材に応じて動的に調整します。
ステップ6: サイドチェーンHPFの活用
サイドチェーンHPFの効果は以下の通りです:
- RND 5254:20Hz~250Hzの範囲で連続可変調整可能
- RND 535:固定150Hzで12dB/octave
- 設定周波数以下の情報がコンプレッション検出に与える影響を減少させます
- 例:150Hzに設定した場合
- バスドラムの低域がコンプレッションに与える影響を減少
- スネアやシンバルがより効果的にコンプレッサーをトリガー
使用例:
- ドラムキット:125-150Hz
- ミックスバス:80-100Hz程度が一般的
重要な注意点:実際の信号パスから低域をカットするのではなく、サイドチェーン検出回路からのみカットします。
Neve 33609には「100Hzで低周波感度を6dB/octave低減する遅いアタック機能」が搭載されており、キックドラムやその他の低域ピークがコンプレッサーをトリガーする程度を調整します。
ステップ7: Blendコントロールの調整(パラレルコンプレッション)
ダイオード・ブリッジの倍音特性を考慮し、Blend機能の活用が推奨されます。
RND 535/5254では31ポジション(0~100%)の精密なBlendコントロールが可能です。
- まず100%(フルウェット)で極端なコンプレッション設定を作成します
- Blendを徐々に下げ、ドライ信号とミックスします
- 自然なトランジェントとダイナミックレンジを維持しながら、厚み・重量・パンチ・色彩を追加します
ステップ8: メイクアップゲインの調整
- コンプレッション後の音量低下を補正します
- RND製品:-6dB~+20dBの範囲です
- A/Bテストで音量マッチングを実施します(ラウドネス錯覚を避けるため)
パラメータ変化を聴き取るコツ
アタックタイムの聴き取り方
方法1: 極端な設定での比較
- 音量を下げ、トランジェントが聞こえる最小レベルに設定します
- コンプレッサーをオフにして再生します
- コンプレッサーをオンにし、4:1以上の高レシオ、低スレッショルドで設定します
- アタックを中~遅め(40-50ms程度)に設定して再生します
- アタックを最速に設定→トランジェントが完全に消失することを確認します
- アタックを徐々に遅くし、トランジェントが現れ始める点を探します
聴取のポイント:
- 速いアタック:トランジェント(最初の打撃音)が弱くなる、よりタイトで分厚いサウンド
- 遅いアタック:トランジェントは保持され、後続の部分が圧縮される、よりパンチのあるサウンド
ドラムでの確認:
- 速いアタック:ドラムの初期衝撃が弱まります
- 遅いアタック:打撃音は強いまま、後続が圧縮されます
ボーカルでの確認:
- 速いアタック:子音(p、bなど)を容易に捉えます
- 遅いアタック:母音のサステイン部分を引き下げます
リリースタイムの聴き取り方
極端な設定でのテスト
- まず約10dBのゲインリダクションを設定します(効果を明確にするため)
- リリースを最速に設定します
- リリースを最遅に設定します
- 両極端を行き来して違いを把握します
聴取のポイント:
- 速いリリース:
- より攻撃的でリズミックなサウンド
- 各音符のアタックが強調されます
- パンプ&ブリーズ効果が顕著
- 遅いリリース:
- 時間経過による音量変動を滑らかに
- より滑らかなレベルコントロール
- サステインの長い音に適します
ダイオード・ブリッジ特有の特性
Timing設定とハーモニックコンテンツの関係です:
- 速いTiming設定:
- 制御電圧のピーク間リップルが大きくなります
- より多くの倍音コンテンツが誘導されます
- オーディオパスへのカラーが増加します
- 遅いTiming設定:
- 制御電圧が大幅に平滑化されます
- 倍音コンテンツが減少します
- より透明なコンプレッションになります
- 動的なタイミングシフト:
- レシオ、スレッショルド、ソース素材に応じてタイムコンスタントが若干適応します
- この動的な特性がダイオード・ブリッジの独特の個性を生みます
レシオの聴き取り方
段階的アプローチ:
- スレッショルドを固定します
- レシオを1.5:1から開始します
- 徐々にレシオを上げます(2:1→3:1→4:1→6:1)
- 各設定でのゲインリダクション量とキャラクター変化を確認します
聴取のポイント:
- 低レシオ(1.5:1~2:1):微妙な圧縮、ダイナミクスを維持
- 中レシオ(3:1~4:1):明確なコントロール、音楽的
- 高レシオ(6:1以上):より制御的、リミッター的動作に近づく
ブレンド/ミックスコントロールの聴き取り方
- まず100%ウェットで極端なコンプレッション設定を作成します
- Blendを0%にして完全にドライ信号のみを聴きます
- Blendを徐々に上げながら以下を確認します:
- トランジェントの変化
- 倍音付加の度合い
- 厚みと密度の増加
- ダイナミックレンジの変化
サイドチェーンHPFの聴き取り方
- ミックスバスやドラムバスで低域の多い素材を使用します
- HPFをオフにして、バスドラムなどの低域がコンプレッサーをトリガーする様子を確認します
- HPFを80-150Hz程度に設定します
- シンバルやスネアのサステインが、より自然に聞こえることを確認します
耳のトレーニング方法
1. 極端な設定から開始
最も効果が分かりやすい極端な設定(無限レシオ、最低スレッショルド、最速アタック、遅いリリース)から開始します。効果を明確に認識してから、徐々に微妙な設定へ移行します。
2. 適切なソース素材の選択
- アタックテスト:スネア、キックなどトランジェント明確な素材
- リリーステスト:ベース、力強いボーカル
- カラーテスト:ギターループなど音響素材が豊富なもの
3. 音量を下げて聴く
ミックスを小音量にすることで、トランジェントの変化がより明確になります。ラウドネス錯覚を避けることができます。
4. 視覚的確認の併用
DAWの波形表示やゲインリダクションメーターを確認します。耳で聴いた内容を視覚的に確認することで理解が深まります。
5. 一度に一つのパラメータのみ変更
複数パラメータを同時に変更しないでください。各パラメータの効果を個別に理解してから組み合わせます。
6. 繰り返し練習
同じエクササイズを一貫して繰り返すことで耳が慣れます。異なるコンプレッサータイプでも同様の練習を実施します。
ダイオード・ブリッジ特有の聴き取りポイント
倍音特性の変化:
ギターループなどで、圧縮によるアッパーミッドの「バイト」追加を確認します。高音部演奏時の倍音変化に注目します。
ダイナミックレンジの知覚:
トランジェントとADSRエンベロープの形状変化を確認します。中程度のアタックでキックのサンプやギターのプラック感がどう変化するか聴きます。
深度の知覚:
アタック/リリースの調整によりミックス内での前後位置が変化します。速いアタック:前方に押し出される印象、遅いアタック:奥行きが感じられます。
5. ソースによる設定例
あくまで目安の出発点です。必ず耳で確認して微調整してください。
5-1. ドラムバス(ロック/ポップ)
目的: パンチと一体感、グルー効果
設定例:
- Input: +14~+18dBm(プラグインの場合-14~-18dBFS)
- Threshold: 2-4dBのゲインリダクションを目標
- Ratio: 2:1~3:1
- Timing: Medium Fast~Medium(プラグインによってはFast)
- Release: 400ms~800ms(オート設定も有効)
- Sidechain HPF: 100-150Hz
- Blend: 70-100%
- Makeup Gain: ゲインロスを補正
5-2. ボーカル(リードボーカル)
目的: 一貫したレベル、前面への押し出し、倍音豊かなトーン
設定例:
- Input: 適切なレベルで入力(ピークで-10dBFS程度)
- Threshold: 3-6dBのゲインリダクション
- Ratio: 2:1~4:1
- Timing: Medium~Medium Slow
- Attack: 5-10ms程度(子音を捉えつつトランジェントは保持)
- Release: 800ms~1.5s、またはAuto
- Blend: 100%(シリアル使用)、または40-60%(パラレル)
- Makeup Gain: 適宜調整
5-3. ベースギター
目的: 一貫したレベル、厚み、ミックス内での安定性
設定例:
- Input: 十分な入力レベル確保
- Threshold: 4-8dBのゲインリダクション
- Ratio: 3:1~6:1
- Timing: Medium Fast~Medium
- Release: 400-800ms
- Sidechain HPF: 60-80Hz(低域の基音を保護)
- Blend: 100%、または50-70%(パラレル時)
- Makeup Gain: 調整
5-4. ミックスバス(総合)
目的: グルー、一体感、パンチ、ビンテージキャラクター
設定例:
- Threshold: 2-4dBのゲインリダクション(微妙に)
- Ratio: 1.5:1~2:1(3:1まで)
- Timing: Medium Slow~Slow、またはAuto
- Attack: 遅め設定(トランジェント保持)
- Release: Auto、または800ms~1.5s
- Sidechain HPF: 80-100Hz
- Blend: 80-100%
- Makeup Gain: 慎重に調整
5-5. エレクトリックギター(ソロ)
目的: 前面への押し出し、サステイン、キャラクター
設定例:
- Threshold: 4-6dBのゲインリダクション
- Ratio: 3:1~4:1
- Timing: Medium Fast~Medium
- Release: 400-800ms
- Sidechain HPF: Off~80Hz
- Blend: 100%またはパラレル50-70%
- Makeup Gain: 調整
5-6. アコースティックドラム(個別チャンネル – スネア)
目的: ボディの強調、一貫したレベル、スナップ
設定例:
- Threshold: 3-6dBのゲインリダクション
- Ratio: 3:1~4:1
- Timing: Fast~Medium Fast
- Release: 100-400ms(素早いリカバリー)
- Sidechain HPF: Off
- Blend: パラレル処理推奨(30-50%)
- Makeup Gain: 調整
5-7. ヒップホップ/ラップボーカル
目的: 前面配置、明瞭さ、アグレッシブなキャラクター
設定例:
- Threshold: 4-8dBのゲインリダクション
- Ratio: 3:1~6:1(アグレッシブな場合)
- Timing: Medium Fast~Fast
- Release: 200-400ms(速めのリカバリー)
- Sidechain HPF: Off~80Hz
- Blend: 100%、またはシリアル圧縮の一部として
- Makeup Gain: しっかりと調整
5-8. ピアノ(アコースティック)
目的: 透明性を保ちながらダイナミクスをコントロール
設定例:
- Threshold: 2-4dBのゲインリダクション(控えめに)
- Ratio: 1.5:1~2:1
- Timing: Medium~Slow
- Release: 800ms~1.5s、またはAuto
- Sidechain HPF: Off~60Hz
- Blend: パラレル処理推奨(20-40%)
- Makeup Gain: 慎重に
5-9. パーカッション・グループ
目的: まとまり、一貫性、リズミックな強調
設定例:
- Threshold: 3-5dBのゲインリダクション
- Ratio: 2:1~3:1
- Timing: Medium Fast~Medium
- Release: 400-800ms
- Sidechain HPF: 100-150Hz
- Blend: 70-100%
- Makeup Gain: 調整
5-10. シンセパッド/ストリングス
目的: 滑らかな厚み、密度、背景での安定性
設定例:
- Threshold: 1-3dBのゲインリダクション(微妙に)
- Ratio: 1.5:1~2:1
- Timing: Slow~Auto
- Release: 1.5s以上、またはAuto
- Sidechain HPF: Off~80Hz
- Blend: 100%または50-80%
- Makeup Gain: 控えめに
5-11. 808ベース(ヒップホップ/トラップ)
目的: 808のサステインを保ちながら、ミックスでの存在感向上
設定例:
- Threshold: 2-4dBのゲインリダクション
- Ratio: 2:1~3:1
- Timing: Medium Slow~Slow
- Release: Auto(プログラム依存)
- Sidechain HPF: 150Hz程度(低域のサブを保護しつつ、グルーヴに反応)
- Blend: 50-70%(パラレル推奨)
- Makeup Gain: 慎重に
5-12. ルームマイク/アンビエンス
目的: 自然な密度、空間の接着
設定例:
- Threshold: 1-3dBのゲインリダクション
- Ratio: 1.5:1~2:1
- Timing: Slow~Auto
- Release: Auto推奨
- Sidechain HPF: Off~60Hz
- Blend: 30-60%(パラレル)
- Makeup Gain: 控えめ
6. お勧めしない使い方
6-1. 完全に透明なコンプレッションが必要な場合
ダイオード・ブリッジは全コンプレッサータイプの中で最もカラフルです。倍音歪みとキャラクター付加が本質的特性です。クリーンで無色なコンプレッションにはVCAまたはPWMが適切です。
6-2. 超高速トランジェント処理が主目的の場合
FET方式(1176など)の方が高速で正確なトランジェント制御が可能です。ダイオード・ブリッジは「crack」ではなく「thwack」サウンドです。
6-3. 不適切な入力レベルでの使用
ダイオード・ブリッジは適切な入力レベルで最高の性能を発揮します。+14~+18dBm程度(プラグインでは-18dBFS = 0VU程度)が推奨されます。入力レベルが低い場合は、前段にゲイン/トリムプラグインを配置してください。
7. よくある質問
- Qダイオード・ブリッジ方式コンプレッサーの最も大きな特徴は何ですか?
- A
ダイオード・ブリッジ方式の最も大きな特徴は、4つのダイオードをブリッジ回路構成で配置することで実現される、倍音豊かで音楽的なキャラクターです。
全コンプレッサータイプの中で最もカラフルで、「重厚で倍音豊かなトーン」を生み出し、ミックスに「パンチと一体感」をもたらします。
- Qどのような音源にダイオード・ブリッジ方式が最適ですか?
- A
ダイオード・ブリッジ方式が最も効果的な音源は以下の通りです:
最適な用途:
- ボーカル:リッチでシルキーな質感、ミックスの最前面への押し出し
- エレクトリックギター:倍音豊かなトーン、前面配置
- ベース:厚みと一貫性
- ドラム:パンチ、スナップ、グルー効果
- ミックスバス:一体感、重厚さ、ビンテージキャラクター
特に効果的:
トラッキング、サブグループ、マスタリング段階まで幅広く使用可能です。ドラムバス、パーカッション素材で独特のスナップを追加できます。デジタル録音に温かみと色彩を加える用途に最適です。
- QTimingまたはAttack/Releaseの設定はどう選ぶべきですか?
- A
Timingパラメーター(またはAttack/Release)の選択は、ソース素材と目的によって決定します。
RND 5254のTiming設定と用途:
Fast / MF(Medium Fast):
- 用途:トランジェント重視の素材
- 最適な音源:ドラム、プラッキング楽器(ギター、ベース)、明瞭な発音のボーカル
- 特性:速いアタック/リリースで積極的な制御、トランジェントに素早くクランプダウン
- 具体値(RND 535):Fast Attack 750μS、Release 130ms / MF Attack 2.25ms、Release 130ms
Med(Medium) / MS(Medium Slow):
- 用途:汎用的な設定
- 特性:やや遅いアタック/リリース、より多くのトランジェントを通過
- 最適な音源:バランスの取れた処理が必要な楽器全般
- 具体値(RND 535):Med Attack 2.25ms、Release 400ms / MS Attack 4ms、Release 725ms
Slow / Auto:
- 用途:滑らかなレベルコントロール
- 特性:非常に遅い設定、トランジェントは完全に通過
- 最適な音源:ミックスバス、マスタリング、サステイン重視の素材
- Auto特性:孤立したピークには高速反応、持続的な高レベルには低速反応
- 具体値(RND 535):Slow Attack 10ms、Release 1S / Auto Attack 5ms、Dual Decay(T1 500ms、T2 1s)
タイミングと倍音の関係:
- 速いTiming:制御電圧のリップルが大きく、倍音コンテンツ増加、より多くのカラー
- 遅いTiming:制御電圧が平滑化、倍音減少、より透明なコンプレッション
- 動的適応:レシオ、スレッショルド、素材に応じてタイムコンスタントが適応
実践的なガイドライン:
- トランジェント保持が目的:遅いアタック(Med~Slow)
- タイトなコントロール:速いアタック(Fast~MF)
- 自然なダイナミクス:Auto設定を試す
- リリース調整:素材のリズムとグルーヴに合わせる
- Qダイオード・ブリッジ方式でシリアルコンプは有効ですか?
- A
はい、ダイオード・ブリッジ方式でシリアルコンプ(複数のコンプレッサーを直列に使用)は非常に効果的です。
推奨アプローチ:
- 2台の2254を直列使用
- 第1段:穏やかなコントロール(2:1レシオ、遅いリリース)
- 第2段:より速く、積極的なコンプレッション
- 段階的アプローチでダイナミクスを均等化、単一の積極的設定よりも重厚な印象を避けます
- 他のコンプレッサータイプとの組み合わせ:
- 1176(FET)+ ダイオード・ブリッジ:
- 1176でピーク制御(速い、リミッター的)
- ダイオード・ブリッジで音楽的キャラクター追加
- LA-2A(Opto)+ ダイオード・ブリッジ:
- LA-2Aで滑らかな平均化
- ダイオード・ブリッジでパンチと厚み
- その他の組み合わせ:
- VCA + ダイオード・ブリッジ:クリア性とキャラクターの両立
- 1176(FET)+ ダイオード・ブリッジ:
- 2台の2254を直列使用
- Q「NUKEモード」とは何ですか(Heritage Audio SUCCESSOR)?
- A
NUKE機能は、Heritage Audio SUCCESSORプラグイン独自の機能で、従来のコンプレッションの境界を押し広げるための特殊モードです。
動作原理:
- 入力段:コンプレッション前に+20dBを追加します
- コンプレッション:より極端な反応を強制します
- 出力段:+20dBのメイクアップゲインを調整可能です(全部または一部)
効果:
コンプレッサーを新しい領域へ導きます。誇張された反応から利益を得ることができます。より攻撃的で極端なコンプレッション特性が得られます。
使用例:
- 通常の設定では得られない極端なキャラクター
- ドラムのスマッシュ効果
- アグレッシブなボーカル処理
- エフェクト的な使用
注意点:
非常に極端な設定のため、慎重に使用してください。Blendコントロールと組み合わせてパラレル処理を推奨します。音楽的な文脈で適切に使用することが重要です。
この機能は、伝統的なダイオード・ブリッジの特性を拡張し、現代の音楽制作での新しい可能性を提供します。
著者について
NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)
業界経歴:1995年~2010年
セッション実績:200本以上
対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music

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