コンプレッサーの入り口編、ここまで
を解説してきました。
第4回は “どのタイミングで圧縮を戻すか” を決める「リリース」にフォーカスします。
- あなたのコンプレッサー設定に何が足りないのか
- この記事を読むと解決できること
- セクション1:リリースの「よくある勘違い」
- セクション2:次の音のアタック前に圧縮を解除することが、すべての始まり
- セクション3:短い・適切・長い、3つのリリース設定の違い
- セクション4:リリースを設定する3ステップ
- セクション5:「あれ、うまくいかない」ときの対処法
- セクション6:「耳を鍛える」トレーニング法
- セクション7:テンポシンク設定:音楽的なリリース調整
- 7-4 効果
- セクション8:リリース設定を「見える化」する
- セクション9:トラブル時の「解決マップ」
- セクション10:プリセットに頼らない理由
- セクション11:よくある質問(FAQ)
- Q2. リリース50msと150msの違いを聞き分けられません。何を注目すればいいですか?
- Q3. ベースには長いリリースが必要というのは本当ですか?なぜですか?
- Q4. テンポシンクってどうやって計算するのですか?
- Q5. オートリリースは使うべきですか?
- Q6. リリース設定を調整する時、何を聞けばいいですか?
- Q7. アタックとリリースのバランスはどうやって取るのですか?
- Q8. ボーカルと楽器でリリースが違うのはなぜですか?
- Q9. リリース設定を間違えると、曲全体にどう影響しますか?
- Q10. リリースを「適切」に設定したかどうか、どうやって判定すればいいですか?
- セクション12:チェックリスト
- まとめ
- 次回予告
- 著者について
あなたのコンプレッサー設定に何が足りないのか
コンプレッサーを使っているのに上手く使いこなせない。以下のどれかに当てはまっていませんか?
- リリースを変えても音の変化が分からない(聴き分ける基準が曖昧)
- ベースやキックが「ブツブツ」と歪んでしまう(リリースが短すぎる)
- ボーカルやミックス全体が「ウーウー」と揺れる(ポンピング現象)
- テンポが違う曲では同じリリース値が効かない(BPM連動の概念を知らない)
これらの悩みの99%は、リリース設定の理解不足で起こります。
なぜなら、リリースこそが「圧縮をいつ解除するか」を決める最も重要なパラメータだからです。
スレッショルドやレシオがどれだけ正確でも、リリースが間違っていれば音の「ノリ」「透明感」「グルーブ」が失われます。
この記事を読むと解決できること
✅ リリース50msと150msの違いを、ゲインリダクションメーターと耳で明確に聞き分けられるようになる(30分のトレーニングで習得可能)
✅ ボーカル、ベース、キック、マスターバスなど、楽器ごとに最適なリリース値が分かり、なぜその値なのかを説明できる
✅ リリース設定でやってしまいがちな失敗パターン5つを事前に回避し、素早く対処できる
✅ テンポシンク(BPM連動)の計算方法を理解し、120BPMでも80BPMでも適切なリリース値を即座に導ける
結果:コンプレッサーの設定時間が3分の1に短縮され、どの曲でも一貫性のあるミックスができるようになります。
セクション1:リリースの「よくある勘違い」
1-1 リリースとは
多くの初心者が、リリースについて以下のように思い込んでいます:
- 「リリースには『正解値』がある」
- 「ボーカルは100msが標準値」
- 「リリースは長ければ長いほど安全」
これらはすべて誤解です。正確には以下の通りです。
リリースとは、信号レベルがスレッショルドを下回った後、圧縮が解除されるまでの時間を指定するパラメータです。
- 単位:ms(ミリ秒)= 0.001秒
- 一般的な設定範囲:40ms~5秒(デバイスにより異なる)
- リリースに「正解値」は存在しない。なぜなら、楽器・テンポ・音楽スタイルによって最適値が変わるからです。
1-2 なぜ同じ設定がうまくいったり、うまくいかなかったりするのか
例1:テンポ依存による失敗
「キックは150msで設定」という固定値を使っている場合、それは特定のBPM(例:120BPM)が前提になっています。
- 120BPM:8分音符=250ms → リリース150msは適切。
- 80BPM:8分音符=375ms → リリース150msは短すぎ(次のキック前に圧縮が解除される)。
例2:楽器の違いによる失敗
例えば、YouTube動画で見た「ボーカルは100ms」という設定を、ベースに適用すると、低周波の波形サイクル(100Hz=10ms)を無視することになり、ディストーション(歪み)が発生します。
例3:「ポンピング」が起こる理由
リリースが長すぎると、圧縮が次の音のアタックまで残留し、前の音の圧縮効果が新しい音に干渉します。結果、「ウーウー」という周期的な音量変化(ポンピング)が生まれます。
セクション2:次の音のアタック前に圧縮を解除することが、すべての始まり
2-1 リリース設定の最初のステップ
同じコンプレッサーなのに、時々うまくいき、時々うまくいかない。
その理由は、リリースと楽曲のテンポ(BPM)が合っていないからです。
リリース設定の基本原則:
「次の音のアタック(トランジェント)直前に、ゲインリダクションメーターが0dBに戻っている状態」が理想。
なぜこれが重要なのか?
- 圧縮が次の音に干渉しない。
- 各音が独立して響く。
- ミックス全体に「グルー感(一体感)」が出る。
2-2 リリースを決める前にやること
ステップ1:楽曲のテンポ(BPM)を確認する
- 120BPMなら、四分音符=500ms、8分音符=250ms
- この値がリリース設定の基準になる
ステップ2:コンプレッサーのゲインリダクションメーターを表示する
実際に「圧縮がいつ解除されるのか」を目で確認できる状態を作ります。
これができていないと、リリース設定は「勘」に頼ることになります。
ステップ3:その後でリリースを決める
例えば、120BPMのキックなら、8分音符値(250ms)を基準に、リリースを100~200msの範囲で実験を始める、という流れになります。
セクション3:短い・適切・長い、3つのリリース設定の違い
3-1 リリースが「短すぎる」場合(40~60ms未満)
起こる現象:
- 圧縮が急速に解除されるため、コンプレッサー内部で音声波形が急激に変化。
- 特に低周波(100Hz以下のベース帯域)で顕著。
- 波形自体が改変されることで、ディストーション・グリット・粗い音が発生。
実際のトラブル事例:
ベースギター + リリース5ms + 強い圧縮(Ratio 20:1)の場合、各波形サイクル(10ms)が急激に切り替わり、特性音が歪む。
聴覚上の変化:
- 「ブツブツ」「ザラザラ」した音。
- 音の透明性が失われる。
- 低音の音程感が曖昧になる。
回避策: リリースを長めに調整(80ms以上)。
3.2 リリースが「適切」な場合(一般的には100~200ms)
起こる現象:
- 圧縮が段階的に解除され、圧縮前の音に自然に戻る。
- 次の音のアタック(トランジェント)直前に圧縮が完全解除。
- 音のダイナミクスが失われず、かつ安定性も損なわない。
聴覚上の変化:
- 音が「呼吸している」感覚。
- 各音が独立して響く。
- ミックス全体に「グルー感」が出る。
3.3 リリースが「遅すぎる」場合(1秒以上)
起こる現象:
- 圧縮が次の音のアタックまで残留。
- 前の音の圧縮効果が新しい音に干渉。
- ダイナミクスが平坦化(音が「潰れた」感じ)。
聴覚上の変化:
- 「ポンピング」(不自然な音量の波)。
- 「ブリージング」(呼吸感が損なわれ、詰まった感覚)。
- 低音の定義感が消える。
実例: ボーカルで長めのリリース設定 → 歌詞の言葉が次々と繋がり、クリアさが失われる。
セクション4:リリースを設定する3ステップ
4-1 「見ながら」設定する理由
多くの初心者がつまずく点は「聴いても違いが分からない」ということです。
解決方法は簡単:目で見えるメーター(ゲインリダクションメーター)を使うこと
実際の流れ:
- レシオ:とりあえず 2:1 で固定
- アタック:速めに設定(20~50ms 程度)
- リリース:中程度に設定(100~300ms 程度)
- ここから「リリースをゆっくり調整していく」
- ゲインリダクションメーターが「次の音の直前に0dBに戻る」位置で止める
なぜ「次の音の直前に0dBに戻る」のが理想なのか?
この設定により:
- 「リズムがロックする」
- 「グルー感が出る」
- 「ポンピングが回避される」
という聴覚的な効果が得られます。
4-2 楽器ごとのリリース設定
ボーカルの場合
| パラメータ | 設定値 | 理由 |
|---|---|---|
| リリース | 50~150ms | スムーズな音量変化。自然な発音タイミング(子音~母音)に対応 |
| スレッショルド | -10dB前後 | 小さい音を持ち上げ、ボーカルを安定させる |
| レシオ | 2:1~4:1 | 過度な圧縮を避け、自然な表現を残す |
| アタック | 10~30ms | ボーカルの立ち上がりをキャプチャ、サビの迫力を損なわない |
判断基準: ゲインリダクションメーターが、次のフレーズの直前に0dBに戻るように調整。
キック(ドラム)の場合
| パラメータ | 設定値 | 理由 |
|---|---|---|
| リリース | 100~200ms | テンポシンク。8分音符相当(120BPM = 250ms)を基準に調整 |
| スレッショルド | -6~-8dB | アタック感を保ちながら圧縮 |
| レシオ | 4:1~6:1 | パンチ感を強調 |
| アタック | 5~10ms | キックのトランジェント(立ち上がり)を捉える |
判断基準: 次のキックヒット直前に圧縮が解除される設定 → リズムが「ロック」する。
スネア・パーカッションの場合
| パラメータ | 設定値 | 理由 |
|---|---|---|
| リリース | 80~150ms | 短めにしてスネアの響きの減衰感を自然に保つ |
| スレッショルド | -6dB前後 | アタック直後に圧縮が解除される設定 |
| レシオ | 4:1~8:1 | 打撃感を強調 |
| アタック | 5ms以下 | 瞬間的なトランジェントをキャッチ |
ベース(ウッドベース / ベースギター)の場合
| パラメータ | 設定値 | 理由 |
|---|---|---|
| リリース | 150~300ms | 低周波の波形サイクル(100Hz = 10msサイクル)を保護。ディストーション回避 |
| スレッショルド | -10dB前後 | 安定性重視 |
| レシオ | 3:1~6:1 | アンサンブルの基盤として音量を均一化 |
| アタック | 20~50ms | ベースのノリを残す |
注意: リリース80ms未満は低音がひずむリスク。複数回のテスト必須。
グルーコンプ(マスターバス)の場合
| パラメータ | 設定値 | 理由 |
|---|---|---|
| リリース | 200~500ms | 全体の音量を滑らかに制御 |
| スレッショルド | -20~-30dB | わずかな圧縮で全体を「接着」 |
| レシオ | 2:1~3:1 | 過度な圧縮を避ける |
| アタック | 10~30ms | 透明性を損なわない速度 |
セクション5:「あれ、うまくいかない」ときの対処法
5-1 低音がひずむ場合
症状:
- ベースやキックが「ブツブツ」「ザラザラ」と歪む
- 低音の音程感が曖昧になる
診断:
- リリースが80ms未満に設定されている。
- スレッショルドが低すぎ(-15dB以下)。
- レシオが高すぎ(8:1以上)の組み合わせ。
原因:
100Hz以下の低周波は波形サイクルが10ms。
これより短いリリースタイムで設定すると、波形改変が起こり、ディストーション発生。
解決策:
- リリースを100ms以上に延長(最初は150msから試す)。
- スレッショルドを-10dB程度に上げ、圧縮量を減らす。
- レシオを4:1以下に設定。
実験方法(無料ツール推奨):
- MeldaProduction MCompressor(波形表示あり)でリリースを変更。
- ゲインリダクションメーターとスペクトラムアナライザーを同時観察。
- 100Hz以下の周波数にノイズが出ないか確認。
5-2 「ぼわぼわ」したり「ポンピング」が起きたら
症状:
- 音量が「ウーウー」と周期的に変動。
- リズムに合わせて音が浮き沈みする(不自然)。
原因A:リリースが短すぎる
- 次の音のアタック前に圧縮が完全解除されず、再び圧縮が開始される。
- 結果、ON-OFF-ON-OFFが視覚的に見える。
原因B:スレッショルドが低すぎる
- ほぼ全ての信号に圧縮が継続的に適用される。
- ノイズフロアまで圧縮される。
解決策:
- リリースを長めに設定(1/8音符の長さに対応させる)。
- スレッショルドを上げ、圧縮対象を制限。
テンポシンクによる判断:
- 120BPMの場合、8分音符 = 250ms。
- この値を基準に、リリースを150~300ms設定。
5-3 ボーカルが「生気がない」「つぶれた」感じになる
症状:
- ダイナミクスがない、音が平坦。
- 迫力がない。
原因:
- リリースが長すぎる。
- スレッショルドが低すぎ。
- レシオが高すぎ。
解決策:
- 「リリース」を短くする(最初は50ms試す)。
- スレッショルドを下げ、圧縮開始点を調整。
- パラメータ調整後、ゲインリダクション量(dB)を観察。
- ピーク時でも-6dB程度が目安
- -12dB以上は過度
5-4 コンプレッサーが「聴こえない」場合
症状:
- リリース設定を変えても音の変化が分からない。
原因:
- スレッショルドが高すぎて、そもそも圧縮が効いていない。
- または、リリース変化が微妙すぎて聞き分けられない。
解決策:
- ゲインリダクションメーターを確認(-3~-6dB程度の圧縮が必要)。
- スレッショルドを下げて、まず圧縮が効いている状態を作る。
- その後、リリースを50ms → 150ms → 300msと段階的に変更して、違いを聴く。
セクション6:「耳を鍛える」トレーニング法
6-1 極端な設定から学ぶ
最初は「聴感」ではなく「視覚」で学びます。
ステップ1:
- Ratio:4:1 に固定。
- Release:「極限まで」短くする(10ms程度)。
- Attack:最速。
- スレッショルド:低めに設定(-20dB程度)。
- 結果:低音が歪む、「ブツブツ」した音が聞こえる。
これで「短すぎるリリース」という基準が、あなたの耳に刻み込まれます。
ステップ2:
- Release:少しずつ長くしていく(10ms → 50ms → 100ms → 150ms …)。
- 各段階で「何が変わったか」をメモする。
- 「この値が好き」というポイントを見つける。
6-2 「AとBを比べる」
最も効果的な学習方法:
- コンプレッサーを ON → リリース50ms → A バージョン として保存。
- コンプレッサーを ON → リリース150ms → B バージョン として保存。
- ここが重要:音量を完全に同じにする。
- 素早く切り替えて「差」を聴く。
なぜ音量を同じにする必要があるのか?
「大きい方が良く聞こえる」という心理バイアスがあるから。
圧縮されると出力が下がるので、メイクアップゲイン補正なしだと「圧縮版が小さく聞こえて判別不可」になってしまいます。
6-3 ドラムで学ぶ理由
ドラムを使うと「リリース設定の結果」が最も明確に聴こえます。
ドラムには、
- トランジェント(立ち上がりの瞬間)
- サステイン(音の伸び)
この両者が含まれるため、リリース設定のどちらの側面にも影響が見え、初心者が「変化を聞き分けやすい」というわけです。
推奨プロセス:
- ドラムキット全体を1つのトラックとして用意。
- コンプレッサーを挿入。
- 攻撃的な設定(リリース10ms)で「何が起こるのか」を学ぶ。
- 段々と実用的な設定(リリース150ms)に近づけていく。
セクション7:テンポシンク設定:音楽的なリリース調整
7-1 テンポシンクとは
リリースタイムを曲のテンポ(BPM)に同期させ、コンプレッサーが音楽的に「呼吸する」設定方法。
7-2 計算方法
60 / BPM = 四分音符の長さ(ms)
例:120BPM
- 四分音符:500ms
- 8分音符:250ms
- 16分音符:125ms
7-3 設定実例
| BPM | 四分音符 | 8分音符推奨 | 16分音符 |
|---|---|---|---|
| 80 | 750ms | 375ms | 187ms |
| 100 | 600ms | 300ms | 150ms |
| 120 | 500ms | 250ms | 125ms |
| 140 | 428ms | 214ms | 107ms |
実装方法:
キックドラムなら8分音符値、スネアなら4分音符の1/3~1/2の値を試す。
7-4 効果
- リリース後、次のトランジェント直前に圧縮が完全解除。
- ポンピング現象が回避され、リズムが「ロック」する。
- グルーブ感が強調される。
セクション8:リリース設定を「見える化」する
8-1 ゲインリダクションメーターの「正常値」
リリースが「いい塩梅」かどうかは、ゲインリダクションメーターで判断します。
目安:
- 次の音のアタック直前に、メーターが0dBに戻っている → 理想的
- メーターが0dBに戻る前に次の音が始まる → リリースが長すぎ
- メーターが0dBに戻ってから時間が空く → リリースが短すぎ
8-2 「流れ図」で判断する
何か「変だな」と感じたら、この流れで確認してください。
1. ゲインリダクション表示を見る。
↓
2. 次の音の直前に0dBに戻っている?
→ YES:理想的(このままでOK)。
→ NO:次へ
↓
3. メーターが0dBに戻る前に次の音が始まる?
→ YES:リリースが長すぎる(短くする)。
↓
4. メーターが0dBに戻ってから時間が空く?
→ YES:リリースが短すぎる(長くする)。
↓
5. 聴いた感じ「音がつぶれた」と感じる?
→ リリースを短くするか、スレッショルド上げる。
セクション9:トラブル時の「解決マップ」
| 状況 | 最初に疑うこと | 調整方向 | 念のため確認 |
|---|---|---|---|
| 低音が歪む | リリースが短すぎ | 長くする(150ms以上) | 波形サイクル確認 |
| ポンピング | リリース長い + スレッショルド低い | リリース短く/スレッショルド上げ | テンポシンク確認 |
| 音が平たく聞こえる | リリース長すぎ(全体圧縮) | 短くする | メイクアップゲイン正しいか |
| 変化が分からない | スレッショルド高すぎ | スレッショルド下げる | ゲインリダクション-3~-6dB確認 |
セクション10:プリセットに頼らない理由
10-1 なぜプリセットは「外れ」やすいのか
例えば、YouTube動画で紹介されているプリセット値「ボーカルは100ms」を試しても、まったく効かないことがあります。
理由:その動画を作った人のBPM設定が、あなたの設定と異なるから
具体例:
- チュートリアル作成者:120BPMを前提で「100ms」と紹介。
- あなた:80BPMで同じ値を試す。
- 結果:全く異なるリリース効果になる。
有効度:
- 同じプロジェクト内、同じBPM → 20~40% の確度。
- 別のプロジェクト → ほぼ運次第。
10-2 毎回「最初から設定」する正しいやり方
- 今回のプロジェクトの「BPM」を確認。
- そのBPMに基づいて、テンポシンク計算。
例:120BPMなら、8分音符=250ms → リリース100~200msで実験開始。 - プリセットは「参考情報」に留める。
手間に見えますが、実は「毎回試行錯誤」より早いです。
セクション11:よくある質問(FAQ)
Q1. リリースに「正解値」は本当に存在しないのか?
A: はい、存在しません。リリースは「楽器・テンポ・音楽スタイルに対する相対値」だからです。
同じ100ms設定でも、
- 120BPMのキックなら効く。
- 80BPMのキックなら短すぎる。
「一般的な値」や「プリセット」に依存していると、成功と失敗が混在し続けます。
大事なのは「毎回、BPMを測定して、そのBPMに基づいてリリースを計算する」ことです。
Q2. リリース50msと150msの違いを聞き分けられません。何を注目すればいいですか?
A: 以下の3ポイントを同時に注目してください。
- ゲインリダクションメーターの速度
- 50ms:メーター針が素早く下がる。
- 150ms:メーター針がゆっくり下がる。
- 聴感:低周波のクリアさ
- 50ms:低音が「ブツブツ」「ザラザラ」(ディストーション気味)。
- 150ms:低音が滑らか、透明性がある。
- 全体のノリ・グルー感
- 50ms:各音が独立しすぎて「バラバラ」感。
- 150ms:各音が自然に繋がり「呼吸している」感覚。
Q3. ベースには長いリリースが必要というのは本当ですか?なぜですか?
A: 本当です。物理的な理由があります。
理由:
低周波(100Hz以下)の波形サイクルは長い(10ms以上)。
短いリリースでこれを「無視」すると、波形改変によるディストーション発生。
推奨値: ベースはリリース150~300ms。
他の楽器との比較:
- ボーカル:50~150ms(発音タイミングが速い)。
- キック:100~200ms(テンポに同期)。
- ベース:150~300ms(低周波保護)。
Q4. テンポシンクってどうやって計算するのですか?
A: 以下の計算式を使用します。
60 / BPM = 四分音符の長さ(ms)
例:120BPM
- 四分音符:500ms
- 8分音符:250ms
- 16分音符:125ms
実装方法:
キックドラムなら8分音符値(250ms)、スネアなら4分音符の1/3~1/2の値(170~250ms)を試す。
Q5. オートリリースは使うべきですか?
A: 段階的推奨です。
初心者(学習段階):✅ 推奨
- 複雑な設定に悩まずコンプレッサーの基本動作を理解できる。
- ディストーション・ポンピングのリスク軽減。
中級者以上(音作り段階):❌ 非推奨
- テンポシンク調整が困難。
- 設定値を把握しにくい。
- 手動設定で音作りの「意図」を明示することが重要。
Q6. リリース設定を調整する時、何を聞けばいいですか?
A: 以下の3つの要素を順に確認してください。
- 低周波の透明性
- 低音がひずんでいないか?ザラザラしていないか?
- 各音の独立性
- 各トランジェント(音の立ち上がり)が明確に聞こえるか?
- または、音がぼやけて聞こえるか?
- 全体のグルー感
- 音が「呼吸している」か、「潰れた」感じか?
Q7. アタックとリリースのバランスはどうやって取るのですか?
A: 基本原則:アタック = トランジェント(音の立ち上がり)キャプチャ、リリース = 圧縮解除タイミング
推奨バランス(楽器別):
| 楽器 | アタック | リリース | 理由 |
|---|---|---|---|
| ボーカル | 10~30ms | 50~150ms | 自然な発音タイミング |
| キック | 5~10ms | 100~200ms | トランジェント + テンポシンク |
| ベース | 20~50ms | 150~300ms | ノリ保持 + 低周波保護 |
Q8. ボーカルと楽器でリリースが違うのはなぜですか?
A: 発音パターンと周波数帯域の違いが理由です。
ボーカル:
- 自然な発音タイミングは短い(100~200ms)。
- 高周波成分(子音)が主体。
- リリースが長すぎると「言葉がつながる」→クリアさ喪失。
楽器(ベース例):
- 低周波成分が主体(波形サイクルが長い)。
- 短いリリース(100ms以下)でディストーション発生。
- 長めのリリース(150~300ms)で波形保護。
Q9. リリース設定を間違えると、曲全体にどう影響しますか?
A: 以下の3つの影響が生じます。
- 低周波品質の劣化
- ディストーション発生 → 聴き疲れ、音の濁り。
- リズム・グルーブの損失
- ポンピング → 不自然な音量波。
- ノリ感の喪失。
- ミックスバランスの狂い
- 各音の独立性喪失 → 音が「潰れた」感覚。
- マスタリング段階でのEQ・リミッター処理が複雑化。
結果: 最終的に聴き手に「疲れる」「プロフェッショナルでない」という印象を与える。
Q10. リリースを「適切」に設定したかどうか、どうやって判定すればいいですか?
A: ゲインリダクションメーターの動きで、客観的に判定できます。
判定基準:
次の音のアタック(トランジェント)直前に、ゲインリダクションメーターがほぼ0dBに戻っている状態が「適切」です。
実例:
- キック:次のキックヒット直前に0dBに戻る。
- ボーカル:次のフレーズ直前に0dBに戻る。
この設定により、「リズムがロックする」「グルー感が出る」という聴覚的な効果が得られます。
セクション12:チェックリスト
この記事を読み終わったら、以下を実行してください。
□今のプロジェクトの「BPM」を確認する。
□そのBPMに基づいて「テンポシンク計算」を行う。
□ドラムミックスで「極端な設定」から実験を始める。
□A/B 比較の時に「必ず音量を一致させる」。
□ゲインリダクションメーターを「常に表示」に設定する。
□5つの楽器別プリセットを「自分で」作成する(この記事のテーブル参考)。
□「ポンピング」が出たら、まずリリースを調整で試す。
□結果を記録して「自分だけのリリース辞書」を作る。
まとめ
- リリースに「正解」はない → 毎回、BPMを測定するところから始まる。
- テンポシンク計算が第一ステップ → テンプレート依存症からの脱却。
- 次の音の直前に0dBに戻るのが理想 → 初心者の耳トレーニングの出発点。
- A/B 比較は音量一致が絶対 → 心理バイアスの排除。
- 物理メカニズムの理解 → 波形サイクル、ポンピング、テンポシンクの役割を知る。
コンプレッサーのリリース設定は「勘」ではなく「測定と計算」に基づいています。
この記事の方法を実装すれば、設定時間が大幅に短縮され、複数の曲でも一貫性のあるミックスが可能になります。
次回予告
「コンプレッサー編」第5回「二―完全ガイド」では、音の滑らかさを作る方法を徹底解説します。
Threshold × Ratio × Attack × Release × Knee × Makeup gain
を体系的に理解していくことで、ミックス全体の精度と再現性を大きく高めることができます。
各パラメータがどのように連動し、どの順番で判断していくと迷いにくいのかも整理していきますので、次回もぜひ楽しみにしていてください。
著者について
NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)
- 業界経歴:1995年~2010年
- セッション実績:200本以上
- 対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music

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