
メイクアップゲインをいくつに設定していますか?
「ボーカルは+3dB」
「ベースは+4dB」
という固定値で設定していても、実際は曲で必要な値が異なります。
なぜなら、復元量は毎回のゲインロス量に依存しているからです。
多くの解説では、「ゲインロス量の測定」を省いて示しているため、同じ結果が得られないのは当たり前です。
この記事では、GRメーターでゲインロス量を正確に測定し、メイクアップゲインの値を導き出す手順をエンジニア目線で詳しく解説していきます。
1. メイクアップゲインは「音量補正」
1-1. メイクアップゲインとは
メイクアップゲインは、圧縮によって低下した信号レベルを復元する機能です。
ポイントを整理すると、次のように理解できます。
- 圧縮により失われた平均音量(ゲインロス)だけを補う
- ダイナミクスの詰まりは残ったまま
- プロセッサー内部の出力段階で機能する(フェーダーとは別物)
この性質のため、メイクアップゲインに「正解値」は存在せず、ゲインロス量は入力信号と圧縮パラメータに完全に依存しているという結論になります。
1-2. よくある誤解
初心者向けの解説では、次のような説明をよく見かけます。
「メイクアップゲインを上げると圧縮が無駄になる」
「フェーダーとメイクアップゲインは同じもの」
「Auto Makeup Gainは常に正確」
一見すると分かりやすいのですが、ここに大きな落とし穴があります。
実際には、次のような構造になっています。
メイクアップゲインは圧縮効果を無効化しない
例:元の信号がピーク-6dBFS、最小音量-26dBFS(変動幅20dB)の場合
→ 圧縮後:ピーク-12dBFS、最小音量-24dBFS(変動幅12dB)← ダイナミクスが詰まった
→ メイクアップゲイン+6dB:ピーク-6dBFS、最小音量-18dBFS(変動幅12dB)← 変動幅は維持
メイクアップゲインは「音量を上げるだけ」で、圧縮による「ダイナミクスの詰まり」の効果は失われません。
1-3. 同じ設定でもうまくいかない理由
よくあるケースを具体的に見てみます。
- 「ボーカルはメイクアップゲイン+3dB」と紹介されていたので、その通りに設定した
- 前はうまくいったのに、別の曲では音量バランスが全く違う
これはメイクアップゲイン値が間違っているのではなく、「圧縮量との関係」が変わっているだけです。
例:
曲A:GRメーター平均-3dB→メイクアップゲイン+3dBでちょうどよく復元される
曲B:GRメーター平均-6dB→同じ+3dBだと不足し、結果として音量が小さくなる
一見「同じメイクアップゲイン値」でも、実際には「圧縮量がどこにあるか」がまるで違うために、結果も変わるということです。
2. ゲインロス量を知ることがすべての始まり
2-1. メイクアップゲイン値は毎回異なる
メイクアップゲインを語る前に、前提となるゲインロス量(圧縮による音量低下)を押さえておく必要があります。
ゲインロス量は以下の要素で決まります。
- Threshold:圧縮が始まるレベル
- Ratio:圧縮の強さ(2:1~∞:1)
- 入力信号の実際のレベル
同じプラグインを使っても、これらの要素が違えばゲインロス量は完全に異なります。
つまり、プラグイン側が想定している「標準圧縮量」と、実際のオーディオが持っている圧縮量が一致しているとは限らないということです。
2-2. メイクアップゲインを決める前にやること
メイクアップゲインつまみを触る前に、次のステップを必ず踏みます。
ステップ1:パラメータを先に確定する
- Thresholdを設定→圧縮の対象となるレベルを決める
- Ratioを設定→圧縮の強さを決める(2:1~∞:1)
- Attack/Releaseを設定→圧縮の反応速度を決める
ステップ2:GR(Gain Reduction)を確認する
実際に「何dBの圧縮が起きているのか」を目で確認できる状態を作ります。
これができていないと、メイクアップゲイン設定は「勘」に頼ることになります。
ステップ3:メイクアップゲインを決める
例えば、GRメーターが平均-3dBを示すなら、メイクアップゲイン=+3dBで実験を始める、という流れになります。
この状態を作ってから、「ゲインロス量に対して、どれだけ復元するか」という話に進みます。
3. ゲインロス量を測定する3つの方法
3-1. 方法A|GRメーターを読む(最も正確)
ほとんどのコンプレッサープラグインには「GRメーター」が装備されています。
- 信号がThresholdに達していないとき:GR=0dB
- 圧縮が動作しているとき:GRメーターが減少量を表示
例:GR=-3dB→圧縮により最大3dBの減衰
例:GR=-6dB→圧縮により最大6dBの減衰
やること:平均的な圧縮量を目視確認し、その値をメモして設定します。
3-2. 方法B|入出力レベルメーターで比較
プラグインが入出力ピークメーターを備える場合。
手順:
- Inputメーター確認→ピークレベルをメモ(例:-3dBFS)
- Outputメーター確認→圧縮後のピークをメモ(例:-9dBFS)
- 差分計算→-3dBFSから-9dBFS=6dBロス
- メイクアップゲイン=6dBに設定
3-3. 方法C|音で判定する(実用的)
手順:
- メイクアップゲインを0dBに設定
- 圧縮ON/OFFを何度も切り替え
- 「大きく/小さく」変わらないポイントを探る
- 両者がほぼ同じ音量に聞こえたら、そこがマッチポイント
注意:完璧にピークを揃える必要はありません。「ほぼ同じ音量に聞こえる」が目標です。
4. メイクアップゲインを決める
4-1. まずは「見ながら」設定する
最初のうちは、「耳だけ」で違いを判別するのは難しいです。そこで、ゲインリダクションを見ながら設定します。
基本的な流れは次の通りです。
- Threshold・Ratio・Attack・Releaseを先に確定
- GRメーターを常に表示
- 圧縮を動作させる
- GRメーターが「-3~-6dB」を示したら記録
- メイクアップゲイン=その値に設定(例:-3dBなら+3dB)
この-3~-6dBという圧縮量が、初心者が「これがコンプレッションか」と認識しやすい領域です。
- -1~-2dB:違いが分かりにくく、「何も起きていない」と感じやすい
- -10dB以上:副作用が強く、音が平たくなりすぎて「何か変だ」と感じやすい
そのため、まずは-3~-6dBを基準値として、耳と目の両方でコンプレッションを体感することが、学習として効率的です。
4-2. 楽器ごとのメイクアップゲインの考え方
ボーカル
目標は「圧縮後の出力を入力前と同じレベルに復元すること」です。
- GRメーター平均-4dB
- Ratio 4:1で自然な圧縮
- メイクアップゲイン+4dB
- ゲインロス分を復元
設定の流れ:
- GRメーター確認→平均4dBのゲインロスを記録
- メイクアップゲイン=+4dBに設定
- 圧縮ON/OFFを切り替え→音量がほぼ同じか判定
- ミックスに戻す→フェーダーで最終調整
注意:メイクアップゲインで全体が上がるため、高周波ノイズ(息音・サ行音)も一緒に上昇する可能性があります。事前にEQやDe-Esserで対処します。
ベーストラック
目標は「圧縮のゲインロスをリセット→次段の処理へ適切なレベルで入力すること」です。
- GRメーター平均-4~-5dB
- Ratio 3:1でタイトな制御
- メイクアップゲイン初期値+4.5dB
- ゲインロス分を復元
- 微調整:音で確認→+4dBに落ち着く(より自然に聞こえた)
ポイント:並列圧縮との組み合わせで、この直列圧縮で「コアのタイト感」を作り、Auxで50%の並列圧縮を加えると「グルー感+パワー感」が出ます。
ドラムキット全体(バスコンプ)
目標は「ドラム全体にグルー感を持たせること」です。
- GRメーター平均-2~-3dB
- Ratio 2:1でライトな圧縮
- メイクアップゲイン+2.5dB
- ゲインロス分を復元
- 確認:A/Bテスト
- バスレベルが安定しているか確認
心理音響的効果:メイクアップゲインで全ドラムがラウド化→これが「グルー感=まとまり感」として知覚されます。
5. 「うまくいかない」と感じたときは
メイクアップゲイン設定時に「何か違う」と感じたら、この対処法を確認してください。
5-1. 対処法一覧
以下の表で「症状から原因を特定し、調整方向を決める」という流れを取ります。
症状 | 最初に疑うこと | 調整方向 | 念のため確認 |
|---|---|---|---|
圧縮ON/OFFで音量が違う | メイクアップゲイン未設定 | GRメーター値に設定 | A/B比較で判定 |
ノイズが大きくなった | メイクアップゲイン多すぎ | 見直す | Noise Gate導入 |
Auto Gainが思ったのと違う | プラグイン精度の問題 | Manualに切り替え | GRメーター確認 |
並列圧縮でバランスが取れない | Makeup GainとAuxフェーダーの混同 | 役割を分離 | 信号フロー図で確認 |
複数圧縮で音が小さい | 各段階でメイクアップゲイン未設定 | 各段階で復元 | チェーン全体を確認 |
この表を目安にしながら、以下の詳細セクションで「自分の症状に該当する項目」を読んでください。
5-2. ノイズが目立つようになった
よくある勘違い
「メイクアップゲインでノイズも圧縮されているんじゃないか」と感じることがあります。
ノイズは圧縮されません。メイクアップゲインで相対的に持ち上げられているだけです。
メカニズムの説明
例を挙げます。
入力信号: ボーカル -10dBFS、背景ノイズ -70dBFS
圧縮実行: GRメーター -3dBを確認
メイクアップゲイン: +3dBで補正
結果:
- ボーカル: -10dBFS → -13dBFS(圧縮)→ -10dBFS(復元)
- ノイズ: -70dBFS → -70dBFS(圧縮されない)→ -67dBFS(持ち上げられる)
相対的に、ノイズが3dB大きくなるため、「ノイズが増えた」と感じます。
対策(優先順位順)
対策1: Auto Makeup Gain機能をオフにして手動調整
- 補正が過剰な場合がある
- GRメーター値から手動で数値を決め、±0.5dB単位で微調整
- 「ほぼ同じ音量に聞こえるまで」という感覚的なマッチングが有効
対策2: Noise Gateを導入
- 無音部分を遮断することで、ノイズの素材レベルを低減
- コンプレッサーの前段に配置
- ゲインリダクションが起きると同時にノイズも減少するため、相対的な問題が軽減
対策3: High-Pass Filterで低周波ノイズをカット
- 100Hz以下のノイズ成分(ハム音、機器ノイズ等)をカット
- ボーカルの基本周波数(80〜200Hz)に影響しないよう注意
- コンプレッサーの前段、またはEQと組み合わせて使用
5-3. メイクアップゲインを上げても音が小さい
原因の診断フロー
音が小さい場合、複数の原因が考えられます。以下の優先順位で確認してください。
A) 圧縮が強すぎる場合
- 症状: GRが-10dB以上で、メイクアップゲイン+10dBでも不十分
- 確認方法: GRメーターを見て、-10dB以上になっていないか確認
- 対処法: Thresholdを上げる、またはRatioを下げて圧縮量を減らす
B) 別のプロセッサーでロスしている場合
- 症状: 複数のプロセッサーがチェーンされている
- 確認方法: 各プロセッサー(EQ、Saturator等)の出力レベルをメーターで確認
- 対処法: 各段階でレベル低下がないか確認、必要に応じてメイクアップゲインを追加
C) DAWフェーダーが低い場合
- 症状: トラック全体のレベルが低い
- 確認方法: トラックフェーダーの位置を確認(通常は0dB / ユニティゲイン)
- 対処法: フェーダーで最終調整(メイクアップゲインではなく、フェーダーの役割)
調整の優先順位
最初から実施する順序:
- 圧縮パラメータを見直す → Thresholdを上げる、Ratioを下げる
- チェーン上のその他プロセッサーを確認 → EQ・Saturator各段階でレベル低下がないか
- DAWフェーダーで最終調整 → メイクアップゲイン段階ではなく、トラック全体の問題として対処
5-4. 複数圧縮を直列接続したときに音が小さい
複数のコンプレッサーを直列(チェーン)で接続した場合、ゲインロスが累積します。
例:
Input (-12dBFS)
↓
Compressor1 (Ratio 4:1) → GR -4dB → Output: -16dBFS
↓
Makeup Gain1: +4dB → Output: -12dBFS
↓
Compressor2 (Ratio 2:1) → GR -2dB → Output: -14dBFS
↓
Makeup Gain2: +2dB → Output: -12dBFS
解決策: 各段階で「出力=入力」のレベルマッチング
各コンプレッサーの後に、GRメーター値と同じメイクアップゲインを設定します。
手順:
- Threshold、Ratioを設定
- GRメーターを確認
- メイクアップゲイン=GR値を設定
- 同じ流れを段階数分繰り返す
- 最初のCompressor前のレベルと最後のCompressor後のレベルが同じになっているか確認
もし異なる場合は、どの段階でメイクアップゲインが設定されていないか確認し、該当するメイクアップゲインを調整します。
6. メイクアップゲインの感覚を鍛える
6-1. あえて「極端な設定」から始める
最初は「聴感」ではなく「視覚」で学びます。
ステップ1:極端な圧縮を体験する
- Ratio:4:1に固定
- Threshold:極限まで下げる(-60dB程度)
- Attack:最速
- Release:中程度
結果:すべての信号が圧縮される=明らかな変化が聞こえる。
これで「これが圧縮だ」という基準が、あなたの耳に刻み込まれます。
ステップ2:段階的に調整する
- Threshold:少しずつ上げていく(-60dB→-50dB→-40dB…)
- 各段階でGRメーターを確認
- 「-3~-6dB」のポイントで止める
- メイクアップゲインを設定
6-2. A/B比較と音量マッチング
最も効果的な学習方法:
- コンプレッサーをON→Aバージョンとして保存
- コンプレッサーをOFF→Bバージョンとして保存
- ここが重要:音量を完全に同じにする(メイクアップゲインで調整)
- 素早く切り替えて「差」を聴く
なぜ音量を同じにする必要があるのか?
「大きい方が良く聞こえる」という心理バイアスがあるから。
メイクアップゲイン補正なしだと「圧縮版が小さく聞こえて判別不可」になってしまいます。
6-3. ドラムで練習するメリット
ドラムを使うと「メイクアップゲイン設定の結果」が最も明確に聞こえます。
ドラムには、
- トランジェント(立ち上がりの瞬間)
- サステイン(音の伸び)
この両者が含まれるため、圧縮とメイクアップゲイン設定のどちらの側面にも影響が見え、初心者が「変化を聞き分けやすい」というわけです。
7. メイクアップゲインとフェーダーの違い
メイクアップゲインとフェーダーは根本的に異なる段階で機能します。
項目 | メイクアップゲイン | フェーダー |
|---|---|---|
実行段階 | 圧縮プロセッサー内部(出力段階) | DAWトラックレベル調整(最終段) |
タイミング | 圧縮直後 | ミックス全体バランス調整時 |
用途 | ゲインロス補償+信号チェーン整合 | ミックス全体のトラック音量管理 |
例:メイクアップゲインで圧縮後の出力を復元→フェーダーでそのトラックをミックス内で位置づける。
8. メイクアップゲイン設定を「見える化」
メイクアップゲインが適切かどうかは、GRメーターで判断します。
目安として、次のように覚えておくと整理しやすくなります。
- -1~-2dB:圧縮がほぼ効いていない
- -3~-6dB:理想的(初心者はここから始める)
- -6~-12dB:中程度の圧縮
- -12dB以上:かなり強い圧縮(注意が必要)
例:GRメーター平均-4dB→メイクアップゲイン+4dB
9. プリセットに頼りすぎないために
9-1. プリセットが「外れやすい」構造的な理由
プリセットに書かれたメイクアップゲイン値は、特定の圧縮量環境を前提にした値です。
作成者側は、例えばGR平均-3dBのボーカルを前提に、「メイクアップゲイン+3dB」という値を提示しているかもしれません。実際の自分の素材がGR平均-6dBだった場合、同じ数値を入れても、まったく違う音量バランスになります。
つまり、プリセットは「どのくらい復元したいか」という方向性の参考にはなるが、そのままの数値が機能する保証はないということです。
9-2. 毎回「最初から」決めるほうが結果的に速い
効率的なアプローチは、次のような流れです。
- 今回のプロジェクトの圧縮パラメータを確定する
- GRメーターで「ゲインロス量」を測定する
- そのゲインロス量に基づいて、自分でメイクアップゲインを計算する(例:GRメーター平均-4dBなら、メイクアップゲイン+4dBで実験開始)
- プリセットはあくまで補助的な参考値として見る
一見手間に思えても、毎回この手順を繰り返したほうが、結果的に試行錯誤の回数は減ります。
10. よくある質問
- Q異なるプラグイン間でメイクアップゲイン値は互換性がありますか?
- A
完全な互換性はありません。同じ-4dBのメイクアップゲイン値でも、プラグインのエンジンによってゲインロスの計算方式が微妙に異なる場合があります。
SSL系のコンプレッサー(高速)とVCA系(やや反応が遅い)では、実装が異なり、GRメーターの読み方も多少異なる場合があります。同じプリセット値を別のプラグインに適用する場合は、必ず自分のプロジェクトで再検証し、GRメーターを確認して調整してください。
- Qマルチバンドコンプレッサーを使う場合、各帯域ごとにメイクアップゲインを設定すべきですか?
- A
はい、推奨されます。マルチバンドコンプでは、帯域ごとに異なるゲインロスが発生します。
例:
低域(100Hz以下): GR -3dB → Makeup Gain +3dB
中域(1kHz前後): GR -5dB → Makeup Gain +5dB
高域(10kHz以上): GR -2dB → Makeup Gain +2dB各帯域の出力レベルを統一しないと、周波数バランスが崩れてしまいます。各帯域のGRメーターを確認しながら、帯域ごとにメイクアップゲインを設定することが正確な処理につながります。
- Qメイクアップゲインを上げると、音がクリップするリスクはありますか?
- A
あります。メイクアップゲインで信号を持ち上げる際、DAWのマスターフェーダーやメーターが赤く点灯する(クリップ状態)可能性があります。
対策:
- メイクアップゲイン設定時に、常にマスターメーターを確認する
- ピークが-1dBFS程度に収まるよう調整
- 必要に応じてトラックフェーダーで事前に-3dB程度下げてから、メイクアップゲインで補正する
メイクアップゲインはコンプレッサー内部の機能であり、DAWの最大出力制限には関係ないため、自分で管理する必要があります。
- Qボーカルのポップノイズやクリック音が、メイクアップゲインで増幅されるのはなぜですか?
- A
メイクアップゲインは「全周波数を一律に持ち上げる」ため、ノイズ成分も同じように増幅されます。
ボーカル: -18dBFS
ポップノイズ: -60dBFS(閾値以下)
圧縮後のメイクアップゲイン +4dB:
ボーカル: -14dBFS(復元)
ポップノイズ: -56dBFS(一緒に持ち上げられた)
相対的に、ノイズが4dB大きくなる対策:
- 録音段階でのノイズ低減が最優先
- コンプレッサー前に De-Esser や High-Pass Filter を挿してノイズをカット
- 必要に応じて自動ノイズゲートを使用
メイクアップゲイン自体がノイズを「圧縮」しているわけではなく、相対的に持ち上げているだけです。
- Qメイクアップゲイン設定時に、推奨されるモニタリング環境(スピーカー/ヘッドフォン)はありますか?
- A
スピーカーでの検証を推奨します。理由は次の通りです。
スピーカー推奨の理由:
- ボーカルなど多くの楽器は、スピーカー環境での聴感を基準に考えられている
- ルームトーンを含むため、実際のミックス環境に近い
- 心理音響的に「自然な」メイクアップゲイン値が見つかりやすい
ただし検証方法としては:
- メイクアップゲイン設定後、ヘッドフォンでも確認する(ノイズの有無など)
- 両方で違和感がないレベルが「正解」
スピーカーのみで設定した場合、ヘッドフォンで聞くとノイズが目立つことがあるため、両環境での確認が最適です。
- Q今回設定したメイクアップゲイン値を、別の曲で使い回すことはできますか?
- A
同じ楽器の場合: 参考にはなりますが、そのまま使用することは推奨しません。
理由:
- 入力レベルが異なれば、GRメーターの値が変わる
- 同じボーカルでも、曲によって録音レベルが異なることがほとんど
- 圧縮パラメータ(Threshold、Ratio、Attack、Release)も異なる可能性がある
実務的なアプローチ:
- 前回設定した値をメモしておく(例:ボーカル +4dB, GR平均-4dB)
- 新しい曲で、同じパラメータから試験的に始める
- GRメーターで実際のゲインロスを確認し、必要に応じて調整
「参考値」としては活用できますが、毎回「測定→調整→確認」の手順を踏むことが、結果的に正確で速いやり方です。
- Qメイクアップゲインの設定が「正しいか」を確認する聴感的な方法は、A/B比較以外にありますか?
- A
あります。以下の方法が実務的です。
方法1: フェーダーを少し下げて再確認
- メイクアップゲイン設定後、トラックフェーダーを-1dB下げて再生
- 「-1dB下げたときに違和感がないか」を確認
- これで、メイクアップゲインが「ちょうどよい高さ」かどうか判定できます
方法2: 別トラックとのバランスで確認
- ボーカルなら、既に設定済みの伴奏トラックとのバランスで判定
- ドラムなら、ベーストラックとのグルーブ感で判定
- ミックス全体での「位置づけ」が正しいか確認
方法3: 連続再生での違和感チェック
- コンプレッサーOFF/ONを自動で繰り返し再生し、耳が慣れた後で再度判定
- 最初の数回は「大きい方が良く聞こえる」バイアスがあるため、何度か聞いてから判断
A/B比較は最も正確ですが、ミックス全体に組み込まれたときの「自然さ」も同等に重要な判断基準です。
11.まとめ
メイクアップゲインは、
- 「圧縮によって低下した信号レベルを復元する機能」であり、圧縮によるダイナミクス制御効果を残したまま音量だけを補正する
- 絶対的な正解値は存在せず、毎回GRメーターでゲインロス量を測定するところから始まる
- GRメーター-3~-6dBが基準として、初心者の耳トレーニングの出発点になる
- A/B比較は音量一致が絶対であり、心理バイアスの排除が必須
という性質を持っています。
この考え方を押さえておくと、テンプレートやプリセットに頼らなくても、毎回の素材に対して合理的なメイクアップゲイン設定を行えるようになります。
12.次に読むべき記事
メイクアップゲイン設定の基礎となるThreshold について →
・コンプレッサー入口編①「スレッショルド完全ガイド」
Threshold 設定後の「Ratio」「Attack」「Release」との最適な組み合わせ →
・コンプレッサー入口編➁「レシオ完全ガイド」
・コンプレッサー入口編③「アタック完全ガイド」
・コンプレッサー入口編④「リリース完全ガイド」
ニーがゲインロス量に与える影響 →
・コンプレッサー入口編⑤「ニー完全ガイド」
あなたのコンプがどの回路種別(FET/VCA/OPT/Vari-Mu)か確認したい →
・【まとめ】コンプレッサーの回路方式と動作特性を徹底解説
著者について
NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)
業界経歴:1995年~2010年
セッション実績:200本以上
対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music

コメント
とても分かりやすく参考になります!♂️
ありがとうございます
素敵なコメントありがとうございます!
コンプレッサーの沼から抜け出すためには、楽器単体(例えばキック)で調整するのではなく複数のの楽器を合わせて調整すると掴みやすくなります。音の前後の移動をコンプレッサーでできるようになってください!