コンプレッサー入口編③「アタック完全ガイド」

・コンプレッサー

“音をどのタイミングで圧縮するか” を決めるのが、コンプレッサーのアタック設定です。
音の勢い、抜け感、パンチ感を大きく左右するこのパラメータを、今回は耳と目で理解できるように実験形式で解説します。

これまでの復習

に続き、第3回では“どのタイミングで音を圧縮するか” を決める「アタック」にフォーカスします。

  1. あなたのコンプレッサー設定に何が足りないのか
  2. この記事を読むと解決できること
  3. セクション1:アタックの「よくある勘違い」
    1. 1-1 アタックとは何か
    2. 1-2 なぜ同じアタック設定がうまくいったり、うまくいかなかったりするのか
  4. セクション2:アタック設定の最初のステップ – 「見ながら」決める
    1. 2-1 アタックを決める前にやること
    2. 2-2 「見ながら」設定する理由
  5. セクション3:アタックの主な設定値と使い分け
    1. 3-1 アタックの標準範囲
    2. 3-2 目的別のアタック設定
  6. セクション4:アタックを設定する3ステップ
    1. 4-1 ステップ1:極端な設定で「効果」を体感する
    2. 4-2 ステップ2:アタックだけを変更して差を捉える
    3. 4-3 ステップ3:実用的な設定に調整
  7. セクション5:「あれ、うまくいかない」ときの対処法
    1. 5-1 「ドラムのパンチが消えた」と感じたら
    2. 5-2 「スネアのクラック音が消えた」と感じたら
    3. 5-3 「コンプレッサーの効果がまったく聞こえない」と感じたら
    4. 5-4 「ボーカルがつぶれた感じになる」
  8. セクション6:「耳を鍛える」トレーニング法
    1. 6-1 極端な設定から学ぶ
    2. 6-2 「AとBを比べる」
    3. 6-3 ドラムで学ぶ理由
  9. セクション7:楽器ごとのアタック設定
    1. 7-1 ドラム
    2. 7-2 ボーカル
    3. 7-3 ベース
    4. 7-4 マスターバス
  10. セクション8:アタックとニーの相互作用を理解する
    1. 8-1 ニーとは何か
    2. 8-2 アタックとニーの組み合わせ
  11. セクション9:トラブル時の「解決マップ」
  12. セクション10:プリセットに頼らない理由
    1. 10-1 なぜプリセットは「外れ」やすいのか
    2. 10-2 毎回「最初から設定」する正しいやり方
  13. セクション11:よくある質問(FAQ)
  14. セクション12:チェックリスト
  15. まとめ
  16. 次回予告
  17. 著者について

あなたのコンプレッサー設定に何が足りないのか

コンプレッサーを使っているのに上手く使いこなせない。
以下のどれかに当てはまっていませんか?

  • ドラムにコンプをかけたらパンチが完全に消えた(アタックが速すぎる)。
  • スネアの「クラック」という高い音が聞こえなくなった(アタックが速すぎる+ハードニー)。
  • コンプレッサーの効果がまったく聞こえない(設定が控えめすぎる)。
  • アタックを速くしても遅くしても、どちらも「何か変」に聞こえる(目的が不明確)。

これらの悩みの99%は、アタック設定の本質を理解していないことが原因です。

なぜなら、アタックこそが「トランジェント(音の立ち上がり)をどう扱うか」を決める最も重要なパラメータだからです。

アタックが間違っていれば、レシオやリリースをいくら調整してもパンチは戻りません。

この記事を読むと解決できること

✅ アタックの本質(「遅延」ではなく「圧縮の深まり方」)を理解し、わずか30分で正しい設定が見つけられる。

✅ キック、スネア、ボーカルなど、楽器ごとに最適なアタック値(15~30ms、10~30ms等)が分かり、なぜその値なのかを説明できる。

✅ アタック設定でやってしまいがちな失敗パターン4つを事前に回避し、素早く対処できる。

結果: コンプレッサーの設定時間が3分の1に短縮され、どの曲でも一貫性のあるミックスができるようになります。


セクション1:アタックの「よくある勘違い」

1-1 アタックとは何か

多くの初心者が、アタックについて以下のように思い込んでいます:

  • 「アタックは反応を開始するまでの待ち時間」。
  • 「アタックは速ければ速いほどいい」。
  • 「アタックに『正解値』がある」。

これらはすべて誤解で、正確には以下の通りです。

アタックは「圧縮がどのスピードで深くなるか」を表す時間です

コンプレッサーは信号がスレッショルド値を超えた瞬間に即座に起動します。その後、設定したアタックをかけて、段階的に圧縮を深めていきます。

つまり「反応を遅らせている」のではなく、「圧縮の入り方をコントロールしている」という意味です。

実際の動作を数字で見る

アタック10ms、圧縮比4:1、信号がスレッショル値を5dB上回った場合、

  • 0ms時点: コンプレッサー起動。圧縮は0から開始。
  • 5ms時点: レシオの深さが目標の50%に達する(約-2.5dB圧縮)。
  • 10ms時点: 目標の圧縮量に到達(-5dB圧縮)。
  • その後: そのレシオレベルを保ち続ける。

この違いは紙の上では地味に見えますが、実際の音は大きく変わります。

1-2 なぜ同じアタック設定がうまくいったり、うまくいかなかったりするのか

例1:プリセット頼みで失敗する理由

YouTubeのチュートリアル動画で「キックのアタックは30ms」と見たので試しても、全く効かないことがあります。

理由:その動画のキックと、あなたのキックではトランジェントの長さが異なるからです。

  • 動画のキック:トランジェントが5msで終わる → 30msアタックで理想的。
  • あなたのキック:トランジェントが20msある → 30msアタックでは一部が圧縮される。

例2:「パンチが消えた」と感じる理由

これはアタックが速すぎて、トランジェント全体が圧縮されているからです。

アタック3ms以下の設定だと、キックの最初のビーター音(周波数100~5000Hz)が圧縮でつぶされ、結果として「スポンジみたい」「空気が抜けた感じ」になります。

例3:「クラック音が消えた」と感じる理由

これはスネアのスナップを構成する高周波数成分(5~10kHz)が、高速アタック+ハードニーの組み合わせでゲインリダクションされるからです。


セクション2:アタック設定の最初のステップ – 「見ながら」決める

2-1 アタックを決める前にやること

同じコンプレッサーなのに、時々うまくいき、時々うまくいかない。

その理由は、楽器のトランジェント特性が異なるからです。

アタック設定を始める前に、以下を確認してください。

ステップ1:トランジェントの長さを把握する

  • ドラムのトランジェント:1~10ms程度。
  • ボーカルの子音:5~20ms程度。
  • ベースのピッキング:2~15ms程度。

これが分かると、「どこからどこまでを通して、どこから圧縮するか」の判断基準ができます。

ステップ2:ゲインリダクションを表示する

実際に「何dBゲイン削減されているのか」を目で確認できる状態を作ります。

これができていないと、アタック設定は「勘」に頼ることになります。

ステップ3:その後でアタックを決める

例えば、キックのトランジェントが5msなら、アタックは15~30msの範囲で実験を始める、という流れになります。

2-2 「見ながら」設定する理由

多くの初心者がつまずく点は「聴いても違いが分からない」ということです。

解決方法は簡単で、ゲインリダクションメーターを使うです。

実際の流れ:

  1. レシオ:とりあえず4:1で固定。
  2. スレッショルド:中程度に設定。
  3. リリース:中程度に設定(100~300ms程度)。
  4. ここから「アタックをゆっくり変更していく」。
  5. ゲインリダクションメーターが「-3~-6dB」を示す状態で、トランジェントの聞こえ方を確認。

なぜ「-3~-6dB」で確認するのか?

この値が「圧縮が効き始める」心理的なスレッショルド値だからです。

初心者の耳は「変化の程度」によって学習します。

-3~-6dBは「これが圧縮だ」という基準を耳に刻み込むのに最適な値です。


セクション3:アタックの主な設定値と使い分け

3-1 アタックの標準範囲

設定値分類圧縮のかかり方実際に聞こえる音使う場面
0.01~1ms超高速ほぼ瞬時に圧縮が最大に達する音がつぶれた感じ。輪郭がなくフラットリミッター代わり。通常は使わない
1~10ms高速高速に圧縮が深くなる音がタイトに整えられた感じ。ダイナミクス制御が明確ボーカル、ベース
10~30ms中程度バランスの取れた圧縮の入り方トランジェント(最初のアタック音)と圧縮のバランスが良い最も汎用的。ほとんどの楽器で使用
30~100ms遅いトランジェントが圧縮をほぼ回避最初の音が活きて、その後だけが制御されるキック、スネアで「パンチ」を出す
100ms以上超遅いトランジェント完全スルー。実質的に圧縮していないミキシングではほぼ使われないマスターバスでグルー効果

実務では0.01ms~250msの範囲で設定することがほとんどです。

3-2 目的別のアタック設定

何をしたいかアタック設定物理的に起きること聞こえ方使う場面
パンチを追加したい20~50ms(遅い)トランジェント(最初1~5ms)が圧縮を回避。その後のサスティーン部だけが圧縮される最初の音が活きて、後が引き締まるキック、スネア、ベース
ダイナミクスを制御したい1~10ms(速い)トランジェント全体が圧縮される。バラバラなダイナミクスが統一される引き締まった、制御された音リード楽器、ボーカル
処理感を消したい遅いアタック + 遅いリリース圧縮が聞こえないように自然に入る加工感がなく、自然に聞こえるマスターバス、背景楽器

重要: 「どちらが正しいか」ではなく、「今、何を必要としているか」で判断します。


セクション4:アタックを設定する3ステップ

4-1 ステップ1:極端な設定で「効果」を体感する

最初は「聴感」ではなく「視覚」で学びます。

手順:

  1. レシオ:4:1に固定。
  2. スレッショルド:「極端に」下げる(-30dB程度)。
  3. アタック:最速(1ms)。
  4. リリース:中程度(100ms)。
  5. 結果:すべての信号が圧縮される = 明らかな変化が聞こえる。

これで「これが圧縮だ」という基準が、あなたの耳に刻み込まれます。

4-2 ステップ2:アタックだけを変更して差を捉える

  1. ステップ1の設定を維持。
  2. アタックを「最速」から「中程度」(20ms)に変更。
  3. 両者を何度もA/Bで聞き比べる。
  4. 「あ、トランジェントが戻ってきた」という感覚を体で学ぶ。

A/B比較の重要ルール:

  • 必ず音量を同じにしてから比較する。
  • 大きい方が良く聞こえるという心理バイアスがあるため。
  • メイクアップゲインで補正する。

4-3 ステップ3:実用的な設定に調整

極端な設定から少しずつ現実的な範囲に戻していく。

  1. スレッショルド値を徐々に上げる(-30dB → -20dB → -15dB …)。
  2. 各段階でゲインリダクションメーターが-3~-6dBを示す位置を探す。
  3. その位置でアタックを微調整(15ms、20ms、30msを試す)。
  4. 「好きな音」になったところで確定。

セクション5:「あれ、うまくいかない」ときの対処法

5-1 「ドラムのパンチが消えた」と感じたら

症状:
ドラムが「生きていない」「ペチャンコ」な印象になって、聞き手に届かない感じ。

原因を見つける方法:

ゲインリダクションメーターを見ながら、以下のどれに当てはまるか確認してください。

原因A:アタックが速すぎる(3ms以下)

  • ゲインリダクションメーターが各ビートで即座に最大値に達する。
  • キックの最初の音(ビーター音)が圧縮でつぶされている。
  • 聞こえ方:「スポンジみたい」「空気が抜けた感じ」。

原因B:リリースが長すぎる

  • ゲインリダクションメーターが各ビート間で0に戻らない。
  • 最初のキックの圧縮が解放されないまま次のキックが到達。
  • 聞こえ方:「詰まった」「沈んだ」ような間延びしたビート感。

解決手順:

  1. アタックを20~30msに設定する
    • この範囲だと、キックの最初の1~2msのビーター音がほぼスルーされる。
    • その後の「ボディ」部分(2ms以降)が圧縮される。
    • 結果として、ビーター音が相対的に強く聞こえ、パンチが出る。
  2. リリースをテンポに合わせる
    • BPM 120の場合、1/16音符 = 125ms(計算式:120÷60×1000×(1/4) = 125ms)。
    • 各キック音の直後、ゲインリダクションメーターが完全に0に戻ることを確認。
  3. ゲインリダクションメーターを目で確認する
    • 各キック音の直後、メーターが0dBに戻っているか視覚的に確認。
    • 戻っていなければリリースがまだ長い。

これで「あ、パンチが戻ってきた」という変化を明確に感じるはずです。

5-2 「スネアのクラック音が消えた」と感じたら

症状:
スネアドラムが「タップタップ」から「ドゥン」という重い音に変わってしまった。

原因:

  1. アタックが速すぎる
    • スネアのスナップを構成する高周波数成分(5~10kHz)が圧縮でカットされている。
  2. ニー設定とアタックの悪い組み合わせ
    • ハードニー+高速アタック(3ms以下)で、スネアの立ち上がり全体が瞬時に圧縮される。
    • 圧縮の入り方が「いきなり」になり、スナップの立ち上がりが失われる。

解決方法:

  1. アタックを10~30msに設定する
    • スネアのスナップは5~20ms続くため、20msアタックなら後半部分だけ圧縮される。
    • クラック音が完全には消えず、コントロールされた状態になる。
  2. ニーをソフトニーに設定する
    • 圧縮の入り方が「段階的」になり、スナップの削減がなめらかになる。
    • ハードニーと違い、スネアの立ち上がりが保護される。
  3. ゲインリダクションを-6~-10dB程度に抑える
    • 過剰な圧縮は避ける。
    • これ以上圧縮すると、スナップがほぼ消えてしまう。

5-3 「コンプレッサーの効果がまったく聞こえない」と感じたら

症状:
パラメータを調整しても音に違いが感じられない。

ほぼ確実に、以下のいずれかが原因です

  1. スレッショルド値が高すぎる
    • ゲインリダクションメーターがほぼ0dBのまま動かない。
    • コンプレッサーがほぼ動作していない状態。
  2. レシオが低すぎる
    • 1.5:1程度では、ゲイン削減があっても変化が微妙。
    • 耳では感じ取りにくい。
  3. 全体的に控えめな設定
    • アタック差(20msと30msの違い)は、圧縮が大きい状態でないと聞き取れない

対策:セクション4のトレーニングを実行してください

極端な設定(レシオ20:1、スレッショルド-30dB)で一度効果を明確に聞いてから、その後に実用範囲に調整します。

5-4 「ボーカルがつぶれた感じになる」

症状:
ボーカルが「平ら」「表情がない」「個性が失われている」と感じる。

原因:
アタックが速すぎて(5ms以下)、ボーカルの子音部分(5~20ms)も圧縮されている。

解決方法:

  1. アタックを20~40msに設定する
    • ボーカルの子音の一部が通り、表現力が残る。
  2. レシオを下げる(4:1 → 2:1)
    • 過度な圧縮を避ける。
  3. ゲインリダクションを-3~-6dB範囲に調整
    • 自然なダイナミクス制御を優先。

セクション6:「耳を鍛える」トレーニング法

6-1 極端な設定から学ぶ

ステップ1:

  1. 使用トラック:ドラムトラック(スネア推奨)。
  2. コンプレッサー設定:
    • レシオ:最大(20:1など)。
    • スレッショルド:大幅に低下(-20dB以下)。
    • ゲイン削減:10~20dB確保。
    • リリース:最速(50ms)。
  3. アタック設定の比較:
    • 1:アタック1msで再生。
    • 2:アタック30msで再生。
    • 両者を何度も聞き比べ、「何が違うのか」を明確に感じ取る。

目的: この時点では「音の良さ」は無視。極端な設定で効果を明確に聞くことだけを目指す。

6-2 「AとBを比べる」

最も効果的な学習方法:

  1. コンプレッサーをON → Aバージョンとして保存。
  2. コンプレッサーをOFF → Bバージョンとして保存。
  3. 重要:音量を完全に同じにする(メイクアップゲインで調整)。
  4. 素早く切り替えて「差」を聴く。

なぜ音量を同じにする必要があるのか?

「大きい方が良く聞こえる」という心理バイアスがあるからです。

圧縮されると出力が下がるので、メイクアップゲイン補正なしだと「圧縮版が小さく聞こえて判別不可」になってしまいます。

6-3 ドラムで学ぶ理由

ドラムを使うと「アタック設定の結果」が最も明確に聞こえます。

ドラムには、

  • トランジェント(立ち上がりの瞬間)。
  • サステイン(音の伸び)。

この両者が含まれるため、アタック設定のどちらの側面にも影響が見え、初心者が「変化を聞き分けやすい」というわけです。


セクション7:楽器ごとのアタック設定

7-1 ドラム

キックドラム:

項目推奨値理由
アタック15~30msビーター音は生かしながら、ボディ部分を制御
リリーステンポに同期(BPM 120で約125ms)各ビート間でゲイン削減を解放
レシオ2:1~4:1過度な圧縮は不自然

スネアドラム:

項目推奨値理由
アタック10~30msスナップは活かしながら、余韻を制御
リリース50~100ms自然な「緩みの感じ」が出る
レシオ3:1~6:1スナップを強調しつつ制御

タムス・オーバーヘッド:

項目推奨値理由
アタック3~8ms(中程度)各打数のスナップを強調
リリース50~100ms(快速)余韻を残しながら制御

7-2 ボーカル

一般的なボーカル:

項目推奨値理由
アタック20~40ms子音の一部を通し、表現力を保つ
リリース100~200ms自然な「緩みの感じ」が出る
レシオ3:1~4:14:1を超えると「ペチャンコ」に

ラップ・リード:

項目推奨値理由
アタック5~10ms子音のアタックは強調し、全体を整える
リリース100ms以上ラップの流れを維持
レシオ4:1~6:1より強い制御が必要

7-3 ベース

エレクトリックベース:

項目推奨値理由
アタック1~10msピッキングの揺らぎを均等化
リリース100~300ms低域の安定感を確保
レシオ4:1~8:1「グルー感(一体感)」を作る

スラップベース:

項目推奨値理由
アタック10~20msスラップの「タップ」音は生かす
リリース100~200msナチュラルな「音の落ち」を表現

7-4 マスターバス

透明性重視:

項目推奨値理由
アタック30~50ms(遅い)ミックス全体の「接着」。処理が聞こえないこと
リリース100~300ms(遅い)自然な「呼吸」感
レシオ1.5:1~2:1(控えめ)透明性を保つ
ゲインリダクション-2~-4dB聞こえない圧縮を目指す

グルー/パンプ効果を狙う場合:

項目推奨値理由
アタック50~100ms(遅い)ドラムとベースが同じタイミングで「呼吸」
リリーステンポに同期(ビート単位)グルーブが踊る感じ
レシオ2:1~4:1適度な一体感

セクション8:アタックとニーの相互作用を理解する

8-1 ニーとは何か

ニーは「圧縮の入り方(カーブ)」を決定するパラメータです。

  • ハードニー: スレッショルドを超えた瞬間、即座に設定した圧縮比で圧縮が開始。
  • ソフトニー: スレッショルドの前後で段階的に圧縮が開始。

8-2 アタックとニーの組み合わせ

組み合わせ圧縮のかかり方聞こえ方使う場面
ハードニー + 高速アタックスレッショルド値超過時、即座に完全圧縮に達する正確だが、時々ポンピング等のアーティファクトが生じるリミッター的使用
ハードニー + 遅いアタックトランジェント通過後、完全圧縮に達する「パンチ」のあるサウンド。ドラム、ベースに有効キック、スネア
ソフトニー + 高速アタック段階的かつ自然に圧縮が開始する処理感が薄い。ダイナミクス制御が柔らかボーカル
ソフトニー + 遅いアタック最も透明感のある圧縮「圧縮をしている」感がないマスターバス

セクション9:トラブル時の「解決マップ」

状況最初に疑うこと調整方向念のため確認
パンチが消えたアタックが速すぎ(3ms以下)20~30msに変更リリースも確認
クラック音が消えたアタック速い+ハードニーアタック10~30ms、ソフトニーにゲインリダクションも確認
効果が聞こえないスレッショルド値が高すぎスレッショルドを下げる圧縮比も確認
音がつぶれたアタック速すぎ+圧縮比高いアタック遅くorレシオ下げる-3~-6dB範囲に調整
ポンピングアタック速い+リリース長いアタック遅く、リリース短くスレッショルド値も確認

セクション10:プリセットに頼らない理由

10-1 なぜプリセットは「外れ」やすいのか

YouTubeのチュートリアル動画で「キックのアタックは30ms」と紹介されていても、まったく効かないことがあります。

理由:その動画のキックと、あなたのキックではトランジェントの長さが異なるからです。

具体例:

  • チュートリアル作成者:キックのトランジェントが5ms → 「30msアタック」で理想的。
  • あなた:キックのトランジェントが20ms → 同じ「30msアタック」では一部が圧縮される。

有効度:

  • 同じプロジェクト内、同じトラック → 20~40%の確度。
  • 別のプロジェクト → ほぼ運次第。

10-2 毎回「最初から設定」する正しいやり方

  1. 今回のトラックの「トランジェント長さ」を把握する。
  2. そのトランジェントに基づいて、自分でアタックを計算。
    • 例:トランジェント5msなら、アタック15~30msで実験開始。
  3. プリセットは「参考情報」に留める。

手間に見えますが、実は「毎回試行錯誤」より早いです。


セクション11:よくある質問(FAQ)

Q
アタックに「正解値」は本当に存在しないのか?
A

はい、存在しません。

アタックは「トランジェントの長さに対する相対値」だからです。

同じ30ms設定でも:

  • トランジェント5msのキック → 理想的。
  • トランジェント20msのキック → 一部が圧縮される。

「一般的な値」や「プリセット」に依存していると、成功と失敗が混在し続けます。

大事なのは「毎回、自分のトラックのトランジェント長さを把握して、そのトランジェントに基づいてアタックを設定する」ことです。

Q
アタックが遅いとドラムが弱くなる?
A

A:いいえ。むしろ逆です。

遅いアタック(20~50ms)は、ドラムの最初の音を保護し、相対的に強く聞こえるようにします。

理由:

  1. 最初のビーター音(1~5ms)が圧縮を回避 → 生のままのエネルギーが残る。
  2. その後のボディ音(5ms以降)が圧縮されて小さくなる。
  3. 結果として、ビーター音が相対的に「盛り上がり」パンチが出る。
Q
アタックは「反応を開始する時間」ではない?
A

正確です。

  • 誤り: アタック = 「信号がスレッショルド値を超えた後、コンプレッサーが反応を開始するまでの待機時間」。
  • 正解: アタック = 「完全な圧縮に到達するまでの時間」。

コンプレッサーは常に即座に反応しますが、その圧縮の深さが時間とともに増していきます。

Q
高速アタックがすべてのケースに有効?
A

A:いいえ。

高速アタック(3ms以下)はダイナミクスを制御しますが、「音が死んだようになる」リスクがあります。

判断の基準:

  • 「パンチ」や「個性」を出したい? → アタックを遅くする。
  • 「制御感」や「整えられたサウンド」を作りたい? → アタックを速くする。
Q
スネアのクラック音が消える理由は?
A

主に2つの原因があります:

  1. アタックが速すぎる
    • スネアのスナップを作る高周波数成分(5~10kHz)がゲインリダクションでカットされる。
  2. ニー設定とアタックの悪い組み合わせ
    • ハードニー+高速アタック で、スネアの立ち上がり全体が瞬時に圧縮される。

解決方法:アタック10~30msの中程度、ニーはソフトニーに設定。

Q
アタックをどう調整しても効果が出ない場合は?
A

以下がほぼ確実に原因です:

  1. スレッショルド値が高すぎる → ゲインリダクションメーターが動かない。スレッショルド値を下げる。
  2. レシオが低い → 1.5:1では可聴差が出にくい。3:1以上に設定
  3. ゲインリダクションが小さすぎる → 極端な設定(20:1圧縮比、-10~-20dBゲイン削減)で一度効果を明確に聞く。
Q
マスターバスのアタック設定は?
A

遅く、かつ圧縮比を低く設定します。

  • アタック:30~50ms。
  • リリース:遅い(100~300ms)。
  • 圧縮比:1.5:1~2:1。
  • ゲインリダクション:-2~-4dB。

目的:ミックス全体を「接着剤」で接着し、ラウドネスを追加しながら、透明感を保つ。

Q
コンプレッサーとトランジェントシェイパーの違いは?
A

処理の考え方が根本的に異なります。

特性コンプレッサートランジェントシェイパー
スレッショルド値あり。設定値を超えた信号のみ処理なし。全トランジェントを自動検出
ベロシティの影響あり。叩く強さで圧縮量が変わるなし。叩く強さに関わらず一定
パラメータ数多い(アタック、リリース、ニー、比率等)シンプル(Attack/Sustain 2つだけ)

使い分けの判断:キックのベロシティ変動を吸収しつつパンチを追加したい場合は、トランジェントシェイパーが優位です。

Q
DAW内でアタック設定を変えても音が変わらない
A

以下をチェックしてください:
1.DAWの出力ルーティングを確認 → オーディオインターフェースが選択されているか。

2.コンプレッサーのバイパス(Bypass)をOFFに → ゲインリダクションメーターが動いているか確認。

3.レシオを最大(20:1)に設定 → アタック設定差を明確に聞く。

Q
プリセットを使っても大丈夫?
A

A:プリセットは「参考値」に過ぎません。

有効度:

  • 同じプロジェクト内、同じ信号レベル → 20~40%の確度。
  • 別のプロジェクト → ほぼ運次第。

推奨プロセス:

  1. プリセットを「参考」として開く。
  2. 毎回、自分のトラックのトランジェント長さを把握。
  3. その測定値に基づいてアタックを計算・調整。

セクション12:チェックリスト

この記事を読み終わったら、以下を実行してください。

□ セクション4のトレーニング(極端な設定→実用的な設定)を実施する。

□ 自分のドラムトラックで、アタック1ms vs 30msのA/Bテストを実行する。

□ A/B比較の時に「必ず音量を一致させる」。

□ ゲインリダクションメーターを「常に表示」に設定する。

□ 5つの楽器別プリセットを「自分で」作成する(セクション7参考)。

□ 「パンチが消えた」が出たら、まずアタック20~30msで試す。

□ 結果を記録して「自分だけのアタック辞書」を作る。

まとめ

  • アタックに「正解」はない → 毎回、トランジェント長さを把握するところから始まる。
  • トランジェント長さの把握が第一ステップ → プリセット依存症からの脱却。
  • ゲインリダクション-3~-6dBが基準 → 初心者の耳トレーニングの出発点。
  • A/B比較は音量一致が絶対 → 心理バイアスの排除。
  • 物理メカニズムの理解 → アタックとニーの相互作用、トランジェント保護の原理を知る。

コンプレッサーのアタック設定は「勘」ではなく「トランジェント把握と計算」に基づいています。

この記事の方法を実装すれば、設定時間が大幅に短縮され、複数の曲でも一貫性のあるミックスが可能になります。


次回予告

「コンプレッサー編」第4回「リリース完全ガイド」では、音の余韻をコントロールするためのリリース設定について、さらに踏み込んで解説します。

Threshold × Ratio × Attack × Release × Knee × Makeup gain

を総合的に理解すると、ミックス精度は確実に上がります。

お楽しみに。


著者について

NAO(元フリーランス ミキシング・マスタリングエンジニア)

  • 業界経歴:1995年~2010年
  • セッション実績:200本以上
  • 対応ジャンル:Pop、Rock、Hip-Hop、Jazz、Electronic Music
    詳細プロフィール

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